メキシコの新鋭、リラ・アビレスが監督した『夏の終わりに願うこと』は、彼女にベルリン国際映画祭エキュメニカル審査員賞をもたらすなど、国際的な高評価を得た。7歳の少女が、父の誕生日パーティーの1日を家族と過ごす物語は、なぜこんなにも胸に迫ってくるのか?

 

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7歳の少女ソルの願いごと

 パパの誕生日パーティーが行われる日。

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 7歳の少女ソルはママの運転する車でおじいちゃんの家へ向かっている。わいわいと楽しいその道すがら、ちょっとしたゲームに興じるふたり。橋を渡っているあいだに、息をずっと止めていられたら、願いがかなう。

 ソルは必死になって息を止め、心のなかで願いごとをする。「私のお願いはなんだと思う?」。そう尋ねるソルに、ママは答える。「なにかな?」。

――パパが死にませんように。

 がんを患ったパパは、おじいちゃんの家で懸命な闘病生活を送っているのだ。

『夏の終わりに願うこと』は、パパと久しぶりに再会する、そんなソルの視点を中心にして、この誕生日パーティーの1日を細やかに描きだす。

 

 第一に、この作品はきわめて秀逸な家族の物語だ。祖父から孫まで、3世代が一堂に会する大家族の様子が、ここではまずにぎやかで楽しい。

 ソルがおじいちゃんの家に到着すると、すでに親類たちが集まり、パーティーの準備が進められている。伯母は、まだ幼い、いたずら好きの娘とケーキ作りに精を出し、また別の伯母は、霊媒師を家に呼び、除霊の儀式をはじめる。精神科医のおじいちゃんは、家中を除霊してまわる霊媒師を、発声補助器具を使い「やめろ!」と一喝する。

 伯母同士が、バスルームの“領有権”をめぐり競り合うさまには、どこか親近感が感じられる。閉めだされたほうはぶつくさと文句を言いながら、髪に塗ったヘアカラーをシンクで洗い流し、キッチンペーパーで頭を拭く。