関西の富裕層をターゲットとした、テレビでも施設の“高級感”を押し出して度々取り上げられている老人ホーム「真理の丘」(仮名)。著名な料理人が監修しているレストランや、多彩なアクティビティを“売り”にしているが、関係者に話を聞くとその裏では「多くの嘘や不正」が横行していた…。「監査前にシフト表を改ざん」などの悪質実態を、ノンフィクションライターの甚野博則氏の最新刊『ルポ 超高級老人ホーム』(ダイヤモンド社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む

人手不足をごまかす「兵庫県の高級老人ホーム」の悪質実態とは? 写真はイメージ ©getty

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反発したスタッフを激詰め

 真理の丘は約80室の規模がある入居型の老人ホームだ。ケアハウスとも呼ばれている。この建物と隣接するかたちで別棟があり、同じく約80床あるユニット型の特別養護老人ホームやデイサービスも運営している。ユニット型とは、ダイニングなどの大きな共用スペースの周りを取り囲むように居室が配置されている構造のこと。真理の丘の居室は全て個室で、室内にはベッドと洗面台、トイレが設置されているという。

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 外観は西洋風の建物で、海と山に囲まれ、自然に恵まれた立地だ。パンフレットを見ると、「手厚い人員配置」と記されていた。通常3名の入居者に対して介護職員が1名という、介護保険法で定められた基準を上回り、入居者2名に対して介護職員1名が付く手厚い体制だということをアピールしている。

 ところが現役スタッフの赤山照子さん(仮名)は「それはウソやね」と一蹴する。

「以前、テレビで取り上げられたときは、入居者さん一人に何人もスタッフが付いているかのように映っていました。撮影のときだけスタッフをかき集めているんですよ。現実は、人が全然足りてません。ある女性スタッフが、身体の大きな入居者さんの入浴介助をしたときのこと。一人だと事故が起きたら大変なので、別のスタッフに介助を手伝ってもらったそうです。すると、それを知った上司が、その女性スタッフを怒鳴りつけていましたよ。人が足らんのやから一人でやれって」

 その上司は、「今後入居者がさらに増えたら、業務量も増えていくのにあなたは一人で入浴介助もできないってことですね」と、このスタッフに詰め寄ったという。

 入居者のことより、自分たちの仕事の効率が優先され、まともな職員はどんどん辞めていく。そして、いつも人が足りていないのだと赤山さんは嘆く。

 彼女の話では、介護スタッフだけでなく一時は清掃スタッフが全員辞めてしまい、清掃作業が行われない状態が続いたこともあるそうだ。

 もっとも、テレビクルーが撮影している間、他の入居者に手が回っていないことを考えれば、施設は入居者よりも宣伝活動を優先しているとも言えるのである。