夏といえば怪談、怪談といえばこの人、稲川淳二は今夏も恒例の怪談ツアー「稲川淳二の怪談ナイト」で全国各地をまわっている。ツアーを始めたのは1993年で、すでに30年以上が経つ。今年のツアーには「怪談喜寿」とのサブタイトルがついているとおり、稲川は今年77歳の喜寿を迎えた。きょう8月21日が誕生日である。

稲川淳二 ©文藝春秋

怪談の仕事が増えた理由は…

 今年は稲川が芸能界にデビューしてから50年の節目でもある。子供向けのテレビ番組に始まり、ラジオの深夜番組『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)にも後述するようにひょんなことから出演するようになる。怪談はその頃、ニッポン放送の局内で暇なときに話していると、芸能人やそのマネージャーが集まって聞いてくれたので、《放送でも話してみたら、信じられないくらい反響があって、怪談の仕事が増えていった》という(『THE21』2019年9月号)。

 稲川の怪談の原点は、子供の頃、母親から夜寝る前によく怖い話を聞かせてもらったことにある。子供たちを楽しませようと、擬音を交えるなどした母の語り口は、彼にしっかりと引き継がれている。

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©文藝春秋

学生時代についた肩書きは「コンパ屋」

 東京出身の彼は小学校のころから話し好きで、雨で学校の校庭で遊べないときなど、教室でよく友達に頼まれては、怪談ばかりでなく、親に吹き込まれたというバカ話などを得意になってしゃべり、大ウケを取っていたという(『週刊文春』2022年7月7日号)。

 専門学校の桑沢デザイン研究所に在学中も、講師が3時間の講義を1時間ほどで終わらせてしまったので、稲川は残りの時間を自分にくれませんかと頼むと、教壇に上がっていきなりバナナの叩き売りの真似を始めたかと思えば、続けて落語と、次々と芸を披露して同級生たちを楽しませたことがあったという(『BIG tomorrow』1992年6月号)。この時代には毎日のようにコンパを開き、彫刻の先生から「コンパ屋」という不名誉な肩書をもらうほどだった。