16キロあった体重は死亡するまでの1ヶ月半で12キロに減少、勉強を少しでもサボろうとすると父親による容赦ない拳が…。2018年3月に起きた「目黒5歳女児虐待死事件」。いったいなぜ実の娘を両親は死に至るまで虐待したのか? ノンフィクションライターの高木瑞穂氏と、YouTubeを中心に活躍するドキュメンタリー班「日影のこえ」による新刊『事件の涙 犯罪加害者・被害者遺族の声なき声を拾い集めて』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

我が子を虐待死に追いやった両親(写真:筆者提供)

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「もうおねがい、ゆるして」

 2018年6月6日、東京・霞が関の警視庁本部で、記者たちは捜査一課長を囲むようにして集まっていた。東京都目黒区で衰弱した船戸結愛(当時5歳)を、放置し死亡させた疑いで逮捕された船戸雄大(同33歳)と母親の優里(同25歳)に関する、逮捕レクを聞くためだ。

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 逮捕レクとは、容疑者逮捕後の報道説明のことである。保護責任者遺棄致死罪。罪状を聞いて記者たちは緊張を走らせていた。ほぼ間違いなく虐待事案である。となればマスコミによる激しい取材合戦が予想される。記者たちは、ペンを手に捜査一課長の言葉を漏らさないようメモを取る。メモは、これから始まる戦いの兵糧に、弾薬になる。

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〈ママ、もうパパとママにいわれなくても、しっかりじぶんから、きょうよりかあしたはもっともっと、できるようにするから。もうおねがい、ゆるして。ゆるしてください、おねがいします。ほんとうにもう、おなじことはしません。ゆるして。きのうまでぜんぜんできてなかったこと、これまでまいにちやってきたことを、なおします。これまでどんだけあほみたいにあそんだか。あそぶってあほみたいだからやめる。もうぜったいぜったい、やらないからね。ぜったい。やくそくします〉

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 捜査一課長が唐突にメモを読み上げたことで、記者たちは驚きを隠せなかった。逮捕レクの時点で裁判の重要になりそうな証拠を明らかにするなど、異例のことだ。

「子供にこんな文章を書かせるなんて鬼ですよ、オニ」

 レクに出た顔馴染みの記者は怒気を込めて言った。悲痛な文面からはいびつな親子関係が透けて見える。

 起訴や公判維持が難しいことが知られている、虐待死事案。家庭内で行われるため、証拠が限られ、起訴してそれなりの罪を追わせるだけの材料集めに時間がかかり、数年経ってから逮捕に至るケースも珍しくない。

 だが、警察は怒り心頭に発していたようで、雄大と優里は、結愛の死からわずか3ヶ月でスピード逮捕される。ばかりか虐待死の多くは、いずれも上限は懲役20年の保護責任者遺棄致死罪か傷害致死罪が適用され、無期や死刑に至る殺人罪が適用されるのは稀であるため、あえて結愛のメモを公開、世間の怒りを虐待に向けさせ公判を維持して重罪を科す意図を、私は感じた。前出の記者によれば、メモを読み上げたとき、捜査一課長は「目に涙を溜めていた」という。