日本は虐待死の刑が圧倒的に軽いと諸外国から指摘されていたことからして、確かに警察は思うところがあったようだ。これまでの判例では懲役4~7年が相場である。苦難の末に白日の下にさらした少女の死を決して無駄にしてはいけない。目指す虐待死の厳罰化は、この事件が引き金になったのである。

犯人夫婦が住んでいた「高級住宅街」へ足を運ぶと…

 警察のプロパガンダとでも言うべき発表を受け、マスコミによる取材合戦はレク直後から否応なしに始まった。特に各社は、事件現場となった3階建てのアパートがある、東京都目黒区東が丘の取材に力を入れる。

 私も事件発生当時、都内でも地価が高いエリアを走る有数の路線である東急東横線と東急田園都市線のちょうど真ん中あたりに位置する現場周辺をくまなく歩いた。どの駅から向かおうとも、徒歩では10分以上かかる場所だが、駒沢公園に隣接し瀟洒な住宅が立ち並ぶ高級住宅街だ。

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一家が暮らしていた東京都目黒区東が丘の閑静な住宅街(写真:筆者提供)

 注文住宅らしい建物があちこちに林立し、住宅のガレージには高級車が並んでいる。一方、マスコミの人垣に加わり事件現場となったアパートを見上げると、息を呑まずにはいられなかった。築40年、間取り2K。にもかかわらず家賃は月8万円。他の地域ならもっと良い物件に暮らせるのでは。建物は周囲から明らかに浮いていた。

 雄大がなぜ見栄まで張り、東が丘にこだわったのか、事情を知らない当時の私には不思議だったが、雄大と優里がこの地にたどりつくまでの軌跡を追うと、その理由がぼんやり見えてきた。

(文中敬称略)