高齢者2人を包丁で刺して殺害しながら、盗んだのは約7000円と犯行後に囓ったリンゴ2個――。2020年9月に死刑が確定した土屋和也死刑囚を、不可解な犯行に駆り立てたものは何だったのか。彼と何度もコミュニケーションをとり、その人間性にまで触れたノンフィクションライターの高木瑞穂氏と、YouTubeを中心に活躍するドキュメンタリー班「日影のこえ」による新刊『事件の涙 犯罪加害者・被害者遺族の声なき声を拾い集めて』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

少年時代の土屋和也氏(写真:筆者提供)

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2017年6月、ついに面会することに

 面会を受けるか否かは和也自身が決められる。会える可能性はかなり低いと思っていた。拒絶の手紙を受け取った直後だからだ。が、和也は予想に反して面会を受け入れた。

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 なぜ私と会う気になったのか。おそらく断れない性格なのだろう。

 東京拘置所の面会室。刑務官に連れられ黒いVネックのTシャツで現れた和也は、アクリル板越しに向かい合っても、ほとんど声を発することがなかった。

「何度も手紙を送ってしまい申し訳ありません」
「いいえ……」
「最近暑くなってきましたけども体調はいかがですか?」
「はあ……」

 一方的に問いかける私と、消え入りそうな声と小さな素振りで反応するだけの和也。4畳半ほどの部屋が、どんよりとした空気に包まれる。

 会話のメモを取る刑務官のペンが動くことがほとんどないまま15分の面会時間は終わった。しかし、部屋を退出する直前に咄嗟に口から出た「また、会いにきてもいいですか?」の問いには、なぜか明確に答えてくれた。

「あっ、はい」

 この会話を最後に、私は数百円の菓子を何個か土屋和也に差し入れて東京拘置所を後にした。しばらく通ってみよう。私はそのとき心に決めた。

 2度目の面会で和也に小さな変化が生じた。

「先日は差し入れありがとうございました」
「お口に合いましたか? 気に入っていただけたらまた同じものを入れますよ」
「ありがたいですが、悪いので大丈夫です。生活があるでしょうから」

 まだ2度目なのに、和也のほうから話しかけてきたのだ。さらにカネを渡さないと話すことすらしない、ひたすら差し入れを要求してくる者がほとんどのなか、こちらの生活を気遣った言葉を受け取るなど、初めての経験である。ますます和也の半生を知りたいと思うようになった。

「私は土屋さんの半生を社会に残したいと思っています……」
「はぁ……」

 差し入れに対する礼は述べるものの、それ以外の会話は成立しなかった。まだ和也から信頼は得ていない。

 事態が大きく動いたのは、初対面から半年後、特に深い考えもなく軽い気持ちでこんな質問をしたときである。