半生を聞き取る作業は、強盗殺人に至るまでの動機を振り返ることから始めた。事件発生当時、和也は携帯ゲームにハマり借金を抱えていた。それが強盗を決意させる引き金だったと裁判では認定されている。
「何のゲームを?」
「覚えていないんです、本当に」
また和也は、強盗目的で侵入した高齢者宅に朝まで居座り、起きてきた被害者と顔を合わせてしまったことから殺害している。
「なぜ家をすぐに出ていかなかったんですか?」
「事件のときの記憶がないんです。思い出そうとしても思い出せない。何を考えていたのか…」
被害者遺族に支払おうとした200万円
事件の詳細は一切語らなかった。だが、「覚えていない」という言葉を嘘だとは思っていない。事実、和也は被害者への謝罪の言葉を述べていたからだ。「被害者の冥福は毎日祈っています。ただ何ができるのかわからない。死刑判決を求める気持ちはわかります」
被害者遺族からすれば、情状酌量を求めるが故の、殺人犯による戯言に過ぎないかもしれない。だが、確かに和也には被害者への謝罪の気持ちがあった。和也は父親が残した200万円の遺産を被害者遺族に支払おうとした。和也が、逮捕されるまでその死を知らなかった実の父親が残したカネだ。が、その猛烈な処罰感情からか、遺族がそれを受け取ることはなかった。遺族から「謝罪の手紙も要らない」と法廷で言われたことで、和也は謝罪文を送ることもなく、その200万円を福祉団体に贖罪寄付するに留めた。