韓国での金正恩委員長へのイメージは激変したといっていいかもしれない。

 南北首脳会談が終わった3日後、4月30日に行われた世論調査(リアルメーター)で、「北朝鮮の非核化と平和定着意志を信頼する」と答えた人が会談前の14.7%から64.7%に急増するという驚きの結果がでた。

首脳会談の舞台となった板門店の共同警備区域。英語ではJSA(Joint Security Area)と呼ばれる ©iStock.com

同じ3世でも、大韓航空のナッツ姫と比べると……

 現地の中道系全国紙の記者が語る。

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「韓国の人はムードに弱いですから(笑)。でも、この世論調査はわずか500人を対象にしたものですし、この結果をそのまま鵜呑みにすることはもちろんできません。

 ただ、金委員長が会談で見せた言動や余裕のある振る舞いから、今までの否定的なイメージを変えることに成功したことは確かなように思います。34歳という若さから考えても、金委員長の会談で見せた堂々とした態度は見事で、晩餐会に姿を見せた李雪主夫人もとても丁寧できちんと場をわきまえた言葉使いや仕草を見せました。こちらが思っていた以上に成熟している姿を見て、知性や品格を感じました。

 ちょうど大韓航空の財閥3世がナッツ姫とか水かけ姫とよばれて醜態をさらしていますから、『同じ3世でも金正恩は大したものだ』という声も出ていました」

サプライズか、それとも演出か

 4月27日、2000年、2007年に続いて3回目となる南北首脳会談が開かれた。

 韓国の大統領が北朝鮮に赴いていた過去のケースとは異なり、初めて北朝鮮のトップが韓国を訪れた。

 南北軍事境界線をはさんでいよいよ対面した文在寅大統領と金正恩委員長は満面の笑みで握手を交わした。65歳と34歳。抱擁し、手を固く握り合ったまま、会話が往来する。金委員長は北朝鮮特有の抑揚ある朝鮮語で徹底して敬語を使っていたが、文大統領はカジュアルな表現も交えていて、同胞だということをあらためて感じさせた。そして、サプライズはこの後に起きた。

手を取り合って「国境」をまたぐ二人 ©getty

 手を取り合ったまま文大統領が金委員長を韓国側に招き入れながら、

「金委員長は南側にいらしたのに、私はいつ頃越えて(北朝鮮側に)行くことができるのか」

 そう言うと、金委員長は、

「それでは今、越えてみますか」

 こうさらりと言ってのけた。

 演出だったという話もあり真相は分からない。文大統領には一瞬戸惑うような面持ちも読み取れた。けれど、言われるまま境界線の高さ5センチのコンクリートをまたいで北朝鮮の地を踏みしめた。

 このシーンは2人きりのベンチ会談などとともに韓国で印象に残る場面となったようだ。会談が行われた週末には、南北軍事境界線をはさんだ韓国と北朝鮮兵士の友情を描いた映画『JSA』(2000年)のセットを多くの人が訪れ、会談のやりとりを再現している様子が報道された。