終戦の日に靖國神社の前で訴える理由
「この日、靖國神社に参拝する方は、戦没者に対して敬意を払う気持ちがあるでしょう。その方々にこんな事実があると訴えれば効果があると考えました」
ーー実際に行なってみた反応は?
「ありますよ。最初、神社に行く途中で私たちの前を通り過ぎる時に『これは何だ?』という表情で眺めています。参拝して帰り際にもう一度、今度は話に耳を傾けて『何が起きているんですか?』って尋ねてくれる。遺骨が海に捨てられるって言うと皆さん驚かれますね。『そんなことがあるんですか?』って。現にそういう計画を国が進めていて、それを止めるためにこうして訴えているんですと伝えています」
具志堅さんたちが配っていたチラシには、次のような文章も記されている。
「防衛省にとって、戦没日本兵は先輩であり戦友です。その戦友の遺骨を、戦友を殺した米軍の基地を作ってあげるため、海に捨てようとしているのです。これは戦友と遺族に対する裏切りです」
基地がいいかどうかではない。その埋め立てに遺骨混じりの土砂を使うことが問題なのだ。これは本来ならすべての日本人に理解されやすい訴えだろう。
「戦没者に対する冒涜ですよ」
ちょうど同じ頃、すぐそばの日本武道館では全国戦没者追悼式が行われていた。前日14日に岸田首相が自民党総裁選不出馬を表明したばかりとあって、すっかり影に隠れてしまったが。
岸田首相は式辞で、戦没者に敬意と感謝の念を捧げるとした上で、「未(いま)だ帰還を果たされていない多くのご遺骨のことも、決して忘れません。一日も早くふるさとにお迎えできるよう、国の責務として、ご遺骨の収集を集中的に実施してまいります」と述べた。
「それを言うなら、こんなことやっちゃダメですよね。戦没者に敬意と感謝を捧げるって言いながら遺骨を海に捨てる。そんなことが同時に行われるって、戦没者に対する冒涜ですよ」
沖縄戦の戦没者はむろん日本軍兵士だけではない。20万人にのぼる犠牲者の中には多数の沖縄県民をはじめ、日本の植民地だった朝鮮や台湾の出身者、それに戦闘相手だった米軍の兵士も含まれる。埋め立てに使われる土砂にはこれらの人々の遺骨も含まれているが、実態を知らないのか、海外でこの問題に声を上げる動きはない。