「彼ら(アメリカや韓国の人)にも触発したいんですよ」
「だから彼らにも触発したいんですよ。アメリカや韓国の人たちも自国の戦没者の遺骨が捨てられると知れば声を上げるでしょう。国際的な人道問題になれば日本政府も動かざるを得なくなります」
こうした声に国はどう向き合っているのか? 具志堅さんと沖縄の遺族たちはこれまで繰り返し防衛省との交渉を重ねてきた。例えば今年2月の交渉で防衛省の担当者は次のように述べた。
「今後新たに発注する工事の土砂の調達先は決まっておりませんけれども、このような歴史(=沖縄戦の犠牲者20万人の多くが本島南部に集中)のある沖縄において、ご遺骨の問題は真摯に受け止める必要があるというふうに認識してございます。こうしたことも踏まえながら事業を進めたいというふうに考えておるところでございます」
これは普通の感覚なら「ご遺骨の問題を真摯に受け止める必要があるから、事業を進める上で南部の土砂は埋め立てに使わない」という趣旨だと受け止めるだろう。そこで具志堅さんは念押しした。
「その通りであれば、南部の土砂は使わないと理解してよろしいですか?」
ところが防衛省の担当者は「繰り返しになりますけど」とことわった上で、先ほどとまったく同じ回答を繰り返す。具志堅さんが言葉を変えて何度確認を求めても、決して「使わない」とは言わない。最後はとうとうこう述べた。
「ご質問の趣旨については十分承知しておりますけども、本日私の方でご回答させていただく内容につきましては、先ほど述べさせていただいた通りでございます」
それ以外の答えは一切許されていないということだろう。具志堅さんはため息をつく。
「何度交渉しても彼らの答えは同じですね。真摯に受け止めるけど『使わない』とは言わない。もう一言一句暗記しちゃいましたよ」
それでも具志堅さんはあきらめないと言う。
「不条理のそばを黙って通り過ぎるわけにはいきませんから」
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首相は戦没者に敬意と感謝の念を捧げるという。国は遺骨を収集し慰霊追悼を行うという。一方で、沖縄では遺骨混じりの土砂を埋め立てに使うことを「やめる」とは決して言わない。これはダブルスタンダードだろう。
そして、このダブルスタンダードは私たち本土の人間全体に蔓延していないか? 沖縄で戦死した兵士は日本全国から集まっていたのに、遺骨を海に捨てることから目を背ける。本来、“英霊”を尊ぶ右翼こそ、この事態に声を上げるべきだろう。具志堅さんたちの訴えは、本土の私たちに鋭い問いを突き付けている。
「あなたたちは沖縄戦で県民と兵士を捨て石にしました。今、再び祖国の戦没者を見捨てるのですか?」
写真=相澤冬樹