「アリとキリギリス」に書かれる働き者で好感度の高いアリのイメージは今や昔、近年では「殺人アリ」として報道されるヒアリをはじめ、外来アリの侵入と繁殖力は日本列島を脅かしつつある。身内(巣の仲間)には優しくとも人間を含め他の生物には無慈悲な外来アリは、私たちの生活のすぐそばまで迫ってきているのだ。その世界を支配するアリの生存戦略とは?
外来アリのなかでも1つのコロニー(群)が大陸を超え、世界を股にかけた圧倒的なスケールで知られるアルゼンチンアリの生態・駆除研究で東大総長賞を受賞、化学メーカーでは殺虫剤の研究に従事し、その写真作品で数々の賞も受賞、アリを追いかけて五大陸を踏破した異色のアリ研究者による『世界を支配するアリの生存戦略』(文春新書)。発売になったばかりの本書より一部抜粋してお届けする。
※「一般的なアリの社会」の項目は本書より冒頭のみを記載。本の中では一般的なアリの社会についても丁寧に解説しています。
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一般的なアリの社会
通常のアリは一つひとつのコロニーがこじんまりしており、1箇所の巣に全員が暮らしているか、狭い範囲にあるいくつかの巣に分散して住まっている。コロニー内に女王は1匹のみか、種類によっては何匹かいるものもある。そして、ちがうコロニー同士は敵対関係にあり、餌やなわばりをめぐって闘争する。同じコロニーのメンバーは血縁関係があるので協力し合うのだが、ちがうコロニー間には血縁関係がないので、たとえばちがうコロニーの個体に餌を分け与えたり手伝ったりしてしまうとタダ働きとなり、自分のコロニーのことがおろそかになってしまう。そのため自分のコロニーの行動圏で出会ったちがうコロニーの個体を厳しく排除しようとする。
侵略的外来アリの社会
侵略的外来アリは、一般的なアリに比べ、はるかに大きなコロニーを作るのが特徴である。多数の女王がいる多数の巣が一つのコロニーを構成しており、これらの巣同士は互いに敵対せずアリが自由に行き来したり協力しあったりする。コロニーに含まれる巣があまりにも広範に分散しており、遠く離れた巣の個体同士は直接交流することがほとんどあるいは全く起こらなさそうなレベルであることから、この巨大コロニーは「スーパーコロニー」と呼ばれる。
一般的なアリよりコロニーが巨大化するのは、侵略的外来アリが近隣への巣分かれの仕組みを持っているからである。侵略的外来アリでも一般的なアリと同様に繁殖期には羽アリが出現するが、新女王は結婚飛行をするのでなく、母巣内でオスアリと交尾を済ませる。交尾を済ませた新女王は、母巣の働きアリとともに近隣にできた巣に引っ越しをする。母巣と、巣分かれによってできた巣とは、血縁関係があるため敵対関係にはなく、むしろアリの行列を介してつながっており、お互いを自由に行き来して連携しあう関係にある。このように、まるで植物が栄養生殖によって株を増やしていくように、侵略的外来アリは侵入した場所で巣分かれによって巣のネットワークを拡大していき、地域全体が一つのスーパーコロニーとなる。