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 スーパーコロニーを形成することにより、侵略的外来アリはたくさんの巣が連携して効率的なリソース配分をすることができる。たとえばスーパーコロニーのテリトリー内に良い餌場ができればその近辺の巣に増員をかけるし、敵が出現した場合もその周囲に戦闘要員を次々送り込み応戦する。逆に一部の巣をとりまく環境が悪化した場合には巣を捨て、周辺の環境の良い巣に避難することもできる。

南アフリカ・ステレンボッシュ郊外のアパート外壁を這うアルゼンチンアリの行列。

 市街地のように人間によって巣場所がしばしば攪乱されるような環境ではスーパーコロニー制はとくに有利と考えられている。そして何より、一般的なアリと異なり近隣の同種のコロニーとのなわばり争いに費やすコストが大幅に低減されるので、その分のエネルギーを繁殖に投資することができる。このように、スーパーコロニー制は侵略的外来アリに、非常に高い効率性と繁殖力をもたらす。

 なお、スーパーコロニーを形成するのは必ずしも侵略的外来アリだけではない。じつは日本在来種であるエゾアカヤマアリも、北海道の石狩浜で連続約10キロメートルにわたりおよそ45000個の巣から成るスーパーコロニーを形成していることが1970年代には知られており(Higashi and Yamauchi 1979)*1、アルゼンチンアリのスーパーコロニーが知られるまではエゾアカヤマアリのスーパーコロニーが世界最大とされていたほどだ。

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マカロンを食すアルゼンチンアリ。フランス・カシにて。

スーパーコロニーの進化史

 しかし、スーパーコロニー制は進化生物学的には合理的とはいえないという指摘がある(Helanterä et al. 2009)*2。というのも、スーパーコロニーの外部から同種のオスがやってきて交配したりすると、スーパーコロニーのメンバー間の血縁度が低下する。世代を重ねてこのような事例が積み重なると、メンバーの血縁関係がどんどんうすれていき、最終的にほとんど赤の他人同士となってしまう。そうなると、協力関係を維持する(分け隔てなく利他行動をする)メリットは全く無くなると考えられる。

 したがって、スーパーコロニーの中で自分と血縁度の高いメンバーを識別して特に縁者びいきする突然変異分子が出現し、スーパーコロニーが崩壊するのではないかと推測する研究者もいる。その傍証として、今日、スーパーコロニー形成種はアリ類全体の系統樹の中で散発的に見られる。特定の亜科や属で進化して有利となりずっと継承されている、というような感じではない。このことから、スーパーコロニー制は進化の袋小路的な存在で、ときどき出現してはやがて滅びるようなことが起こっているのではないか、という推論がある。

昆虫学者で写真作家の砂村栄力氏。この記事中の写真もいずれも著者の砂村さんによるもの。

 とはいえそもそもスーパーコロニー間の交配が自由に起きるのかといったことを含めスーパーコロニー形成種の配偶システムがそれぞれの種について詳しく分かっていない部分もあるので、スーパーコロニー制の進化メカニズムや行く末については今後も研究が必要だ。これまでの研究で興味深いことが分かってきており、たとえばヒアリには多女王制のコロニーと単女王制のコロニーがあり、どちらになるかはGp-9という一つの遺伝子によって制御されている。


*1 Higashi S, Yamauchi K (1979) Influence of a supercolonial ant Formica (Formica) yessensis Forel on the distribution of other ants in Ishikari Coast. Japanese Journal of Ecology, 29: 257–264.

*2 Helanterä H, Strassmann JE, Carrillo J, Queller DC (2009) Unicolonial ants: where do they come from, what are they and where are they going? Trends in Ecology & Evolution, 24: 341–349.