加えて、原産地で切磋琢磨してきた競争相手が侵入先ではいない、というのも外来種にとって大きなアドバンテージになる。外来アリでいえば、アルゼンチンアリ、ヒアリ、コカミアリ、タウニーアメイロアリといった著名な侵略的外来アリはいずれも南米原産でお互いに競合関係にあり拮抗しているが、侵入先ではこれらの制約から解放されて単独で大暴れできる。例えば上でタウニーアメイロアリは微胞子虫に弱いという話をしたが、このアリはヒアリとの闘いには強く、ヒアリの毒を中和して無効化するという技を持っている。一方、侵入先の在来アリは、外来アリの武器や先方に適応していないので、外来アリに対して無防備で、やられてしまいやすい。
次に、植物食性が強いことも、外来アリを侵略的にする要因の一つと言われている。多くのアリは雑食性だが、先に述べた進化の過程でいう狩りバチのグループに属するので、基本的には肉食動物の部類に属する。侵略的外来アリも雑食性だが、とくにアブラムシ・カイガラムシ類の分泌する甘露や花の蜜などをよく摂取する。アブラムシ・カイガラムシ類の分泌する甘露は、これら吸汁性昆虫が植物から吸った師管液をほぼそのまま排出しているものなので、それを食べるのは植物食と言って良いだろう。
ここで中学の理科で習う「生態系ピラミッド」を思い出してほしい。生物は食べたものの全てを自分のエネルギーにすることはできないのでロスが生じ、生産者(植物)、低次消費者(草食動物)、高次消費者(肉食動物)の順に数が少なくなっていく仕組みになっている。この枠組みの中で、侵略的外来アリはかなりの低次消費者ということになる。そのため、アリ類の中でもとくに個体数を増やすことができるのである。甘露に豊富に含まれる炭水化物をエネルギー源として、侵略的外来アリは活発に動きまわる。そして餌メニューの一部として他の昆虫なども食べ、それら生物に大きな影響を与えてしまう。
以上で説明してきたスーパーコロニー制、天敵や競争からの解放、植物食性。これらはいずれも外来アリの侵略性に寄与していると考えられている。
砂村 栄力(すなむら・えいりき)
昆虫学者・写真作家。1982年東京生まれ。東京大学大学院にて外来種アルゼンチンアリの生態および駆除に関する研究を行い博士の学位を取得(東京大学総長賞受賞)。その後、住友化学株式会社での殺虫剤の研究開発を経て、現在は国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所にて害虫の駆除研究に従事(林野庁出向中)。専門とするアリやカミキリムシなどの外来生物を材料に、生態の記録や美術作品の制作も行っている(田淵行男賞写真作品公募 アサヒカメラ賞受賞)。日本自然科学写真協会会員。東京大学非常勤講師(昆虫系統分類学)。共著に『アルゼンチンアリ 史上最強の侵略的外来種』(東京大学出版会)、『アリの社会:小さな虫の大きな知恵』(東海大学出版部)などがある。本書が初の単著となる。