コカミアリでは女王とオスの交配によって働きアリが生まれるのは他のアリと同様だが、新女王と新オスはそれぞれ親女王と親オスのクローンになるという特殊な繁殖システムが発見されている。ヒアリにおけるスーパーコロニー制進化の説明は一筋縄ではいかないが、コカミアリのようなクローン繁殖ならそりゃスーパーコロニーにもなるわな、と直感的には理解できる。
アルゼンチンアリでは血族内での交配を守るべく、働きアリが外部から血縁関係のないオスの移入を禁止しており、かつ巣内でも自分たちと血縁関係が低めの女王を処刑して間引くことによって一夫一妻仮説の前提に近い条件を保とうとしていることが分かってきている。
社会性以外にもある外来アリの強さのヒミツ
スーパーコロニー制に加えて、複数種の侵略的外来アリが共通して持っており、その侵略性の要因になっていると推測される生態学的な要因がいくつかある。まず、これは外来アリに限らず外来種全般でよく言われていることだが、天敵や競争相手からの解放である。生物には基本的に必ず捕食者や寄生者といった天敵がいて、それによって特定の生物だけが増えすぎることなく、生態系のバランスが保たれているものである。
しかし、外来種は侵入先では原産地にいた天敵がいないため、異常に増えてしまう。外来アリの場合、たとえばヒアリでは、寄生性のノミバエが原産地では有力な天敵の1つとなっている。このノミバエのメス成虫は、地表を活動するヒアリの胸部に卵を産みつける。孵化したウジはヒアリの体内に侵入し、食い進む。寄生されたヒアリはすぐには死なないが、しだいに動きが鈍くなっていき、最後はハエのウジに首を切り落とされ、やがて食い尽くされた頭の中からハエの成虫が出てくる。ノミバエはヒアリにとって脅威であり、ノミバエがヒアリの行列に近づいてくるとヒアリ達は巣の中に逃げ込むなど、寄生を免れたとしても活動を大きく制限される。私たち人間も2020年以降コロナウイルス感染をおそれて外出などの自粛を強いられたが、原産地のヒアリは常にこのような状況にさらされているというわけだ。
また、コロナウイルスではないが、病原性のウイルスや微生物もアリにとって有力な天敵で、たとえばアメリカ南東部に侵入して近年問題になっているタウニーアメイロアリNylanderia fulvaというアリに対して微胞子虫という微生物の仲間を人為的に感染させることで地域全体の個体群に大ダメージを与えることに成功した事例が知られている。