――ただ、最終的には温存することができたわけですよね。
鎧塚 小田原にあるかまぼこの老舗「鈴廣かまぼこ」の会長さんがお医者さんを紹介してくれたんです。その方を筆頭にした眼科医の精鋭が集まったチームで手術をしてもらって、成功しました。ただ、眼圧が高くなる症状は治まりましたが、一度失った視力は元には戻らずで、いまも左目は視力ゼロのままです。右目の視力は、1.2ありますけどね。
仕上がりをみたスタッフが「これ、何?」という顔をしたことも
――お菓子作りは、味覚だけではできないですよね。見た目の美しさも問われるわけですし、材料の分量も重要ですから、視覚の能力を半分失うというのはおおきなデメリットになったのでは。
鎧塚 見えなくなった直後はかなり苦しみました。細かい作業が全くできない。ロウソクに火をつけるとか、いまだに苦手ですね。見えるのが片方だけだと、遠近感、立体感が失われるんです。たとえばチョコレートの先に金箔を載せるとかができなくて、仕上がりを見たスタッフが「これ、何?」という顔をすることもありました。
――でも、だんだんと慣れていったと。
鎧塚 徐々に、徐々に、といった感じです。本当に、ちょっとずつですね。道具の持ち方を変えたら、細かいところが見えるようになったとか。そういった工夫を、何度も繰り返して。体って覚えていくもので、遠近感、立体感に関しては、以前と比べたらだいぶ把握できるようになりました。いまは完璧とまでは言えないけど、完璧に近い状態になっています。
――網膜中心静脈閉塞症を患った時期、自暴自棄になることはなかったのですか。
