「もし両目が見えへんようになっても」菓子屋として生きていく
鎧塚 ないですよ。「もし、両目が見えへんようになったらどうしようかな」とか、そういった怖さが全くなかったというと嘘になりますが、どうしたらそれをプラスに変えていけるかを考えましたよね。
仮に両目が見えなくなるんだったら、完全に視力がなくなる前に弟子をもっと育てて、味覚をさらに鋭くして、味のチェックだけをしてお客様にお出しするスタイルで行こうか、とかね。それはそれでカッコいいでしょ(笑)。右目が見えなくなっても、菓子屋としてどう生きていけるかをちゃんと考えますから。なっちゃったら、なっちゃったなりにやっていかないと、どうしようもないですよ。
――アイパッチをしたパティシエというのは、当時ものすごく衝撃でした。アイパッチも海賊がするような黒い革製だったりするのが、これまた尖っていたなと。
妻・川島なお美さんが選んでくれたアイパッチ
鎧塚 当時は手術するかどうか迷っていた時期でしたね。左目はただれていて、内側の筋肉が弱っていて、少し斜視も入っていたんですよ。それもあってのアイパッチを着けていました。僕はなにかにつけてプラス思考なので、医療のアイパッチよりも黒のアイパッチをして黒のスーツを着たらカッコいいんじゃないかって思ったんです。
――アイパッチは、いろんな種類がありましたよね。
鎧塚 いっぱい集めていました。雨の日はカエル柄のアイパッチにしたり、バレンタインの日はハート形のアイパッチにしたりとか……。本当にいろいろしていました。
――そうしたデザインのものは日本で売っているのですか。
鎧塚 いや、アメリカのものです。女房がアメリカからわざわざ取り寄せてくれていました。女房が管理していましたけど……もういまはないかもしれないな。
撮影=榎本麻美/文藝春秋
