田村D「そうすると、さらにもうひと工夫したくなりますよね。急に歌から始まるのもなんなので、現場のマネージャーさんに『何かコンサートのノイズない?』とリクエストしたんです。冒頭のあの歓声は、渋谷公会堂で行われたコンサートを資料用に撮影したビデオから抜き出したもので、作り物ではなく、ファンの本物の歓声です」

 サビ頭だけでは飽き足らず、本物の歓声やノイズを足す。田村Dがそこまでしたのは、そのぐらい突き抜けたことをやらないとおニャン子には勝てない、と考えたからだ。

 編曲は、シングルでは『風のマジカル』以来となる鷺巣詩郎が担当。「俺にアレンジを頼むってことは、派手にやっていいんだよね?」が口グセの鷺巣は期待に違わず、明るくハッチャケたこの曲をさらに輝かせてくれた。

 鷺巣がスタジオでアレンジの作業をしているとき、その場にいたブラス担当のミュージシャンたちがこの曲を絶賛してくれたことも、田村Dにとっては心強かった。

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 ちなみに途中の「You are an idol」という声の主は、当時鷺巣と同じ事務所に所属していた作曲家の亀井登志夫で、田村Dによるとたまたまスタジオに居合わせたので頼んだとのこと。

 一方小泉も、歓声で始まる曲など歌ったことがないので、入りのタイミングをつかむのに少し苦労したが、あとはサッと歌いこなしてくれたという。最後、何かひとこと欲しいという田村Dのリクエストを受け、小泉がチョイスしたのが「バイバーイ!」だった。

 ありがちな熱いセリフで締めるのではなく「ハイ、悪ふざけはこれでおしまい!」とサクッと終わらせるところが、いかにも小泉らしい。

オリコン初登場で1位を獲得

 おニャン子の“素人旋風”に対するカウンターとして、プロのアイドル・小泉が底力を示してみせた『なんてったってアイドル』は、オリコン初登場で1位を獲得。

 年暮れの紅白歌合戦で、発売から間もないこの曲を歌った小泉は、歌詞の内容とまったく関係ない全身筋肉ムキムキ、脳がムキ出しの衣裳で登場した。途中でその衣裳を脱ぎ捨てると中はお花畑……と文章で書くとますます訳がわからないが、そんな演出が成立するアイドルは、小泉今日子だけだ。

異端かつ最強のアイドル、キョンキョン ©文藝春秋

 ただ、ここまで突き抜けてしまった先には、いったい何があるんだろう? 余計な心配をしてしまったのは、私だけではなかったと思う。