健康診断の基準値は高めに設定されている
Aさんは「バセドウ病」でした。
バセドウ病とは、甲状腺が脳の指令を無視して代謝を上げるホルモンを出しっぱなしにする病気です。過剰に代謝が上がるので、まるでいつも運動しているような状態になり、脈拍が速く、汗が多く、暑がりで疲れやすくなります。体内のコレステロールも消費されやすくなるので、低くなる傾向があるのです。
バセドウ病を放置すると「甲状腺クリーゼ」とよばれる命に関わる疾患になったり、特に心臓に大きな負荷がかかるため、心不全や不整脈などを併発します。
バセドウ病は治療により一刻も早く甲状腺ホルモンを安定させる必要があります。
実は私が診察した中でも、このような20代~30代の例は枚挙にいとまがありません。
●「白血球数の数値が高い」と言われて受診したら白血病だった
●ただの糖尿病だと思って受診したらインスリン注射が必要なI型糖尿病だった
●「血圧が高い」と言われて受診したら原発性アルドステロン症だった
●コレステロール値が高いので受診したら、心筋梗塞や狭心症を発症する確率が通常の10倍~20倍にもなる「家族性高コレステロール血症」だった
もちろん健康診断で異常が出ているからといって、絶対に二次検査でも異常が出るわけではありません。むしろそうでないケースのことが多いでしょう。
しかし、本来20代~30代は体が一番充実している時期であるはずです。
健康診断の基準値は、中年以降の方も範囲内に入るように少し高めに設定されています。にもかかわらず、20代~30代で異常値が出るということは、それなりの理由があるはずなのです。たとえそれが生活習慣の乱れで起こっていたとしても、体にとって相当に強い負担になっているサインであることは間違いなく、ただちに改善すべきです。
このように、20代~30代の異常はあまり放置せずに、一度原因をきちんと調べる必要があります。
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本記事の全文は『文藝春秋 電子版』に掲載されています(伊藤大介「健康診断は宝の地図だ 第2回」)。
全文では、40~50代は「致命的疾患の予兆チェックが重要」、60代以上は「オプション検査を追加も検討を」など年代別に伊藤医師がアドバイスします。
・第1回 健康診断は宝の地図だ 「進行レベル」と「進行速度」を意識せよ