元北海道日本ハムファイターズ監督で、WBC日本代表を優勝に導いた栗山英樹さんは、どのような本を読み、どのような影響を受けてきたのか。その読書人生に迫る。(取材・構成 稲泉連)

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 40歳前後で人生に迷いを感じたとき、新聞で有名な企業の経営者の方々が「座右の書」を挙げている記事を読みました。そのなかでふと手に取ってみたのが、複数の人が紹介していた渋沢栄一の『論語と算盤』でした。

『論語と算盤』を『野球と算盤』に読み換える

『論語と算盤』は以前に少し読んだことはあったものの、以前の僕の読書は「面白いから読む」というスタイルで、本を自身の「学び」にしていくような読み方はしていませんでした。しかし、ある種の本は、その人の人生の「時」を選んで、身体に沁み込んでくるものなのでしょうね。自分の人生の道を探すつもりで『論語と算盤』を懸命に読んでいると、「ああ、なるほど。こういうものを本当に読み込んで勉強し、自分の血肉に変えていかなければならないんだ」という思いを抱いたのです。

 

『論語と算盤』は知っての通り、「日本の資本主義の父」と言われる実業家の渋沢栄一が、「経営」と「道徳」の関係を後進の企業家のために語ったものです。「お金儲け」と「道徳」は一見すると相いれないものにも感じられますが、中国古典の『論語』の精神に適った商売を行い、ビジネスで得た利益は人々の幸せのために使うべきだ、という経営哲学が語られています。

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 考えてみれば、プロ野球の世界も同じではないか、と僕は思いました。プロの世界ではたとえチームが最下位であっても、選手本人は自分だけでも成績を残せば年俸が上がっていくものです。そのなかで「チームのために働く」には、どのような考え方を持つ必要があるのか。『論語と算盤』で描かれる経営哲学は、「野球と算盤」と言い換えても読むことができるのではないか、と。

 渋沢栄一が言うように、人生においては「結果」だけではなく、いかに頑張り切ったかという「過程」も大切です。自分や社会にとって本当に大切なことに一生懸命に取り組めば、勝っても負けても僕らは何かを得ることができる。