2006年、ケニアのスラム街にある小学校の壁に、子供達とカラフルで明るい絵を描いた画家のミヤザキケンスケさん。11年からは東北、16年に東ティモール、17年にはウクライナと、国内外の被災地や紛争地で、平和の壁画プロジェクト「Over the Wall」を続けてきた。
「今年は8月に南米のエクアドルの首都キトで活動します。これまでは現地の子供達と一緒に描いてきましたが、今回は女性刑務所・更生リハビリ施設にいる女性達と刑務所の壁に絵を描きます」
学生時代、フジテレビの番組『あいのり』に出演。番組の企画としてフィリピンで壁に絵を描いたことが転機となった。大学を卒業し、ロンドンでストリートペインティング等をしながら2年過ごしたが、手応えを得られず、「日本に帰ったら出来ないことをしよう」とケニア最大のスラム街キベラスラムに渡った。
ミヤザキさんの絵の特徴は圧倒的な色彩と一目見ただけで幸せな気分になること。
「テーマは“Super Happy”です。大震災の時、福島に入り、震災後に仮設店舗で営業を始めた理容室に絵を描いた折には『こんな悲しみの時に明るい絵を描いていいのだろうか』と迷いました。でも、『元気が出たよ』という声に逆に励まされました」
海外でもそれぞれの国が抱える“壁”は異なる。
「ケニアでは貧困に直面しましたし、東ティモールは独立に際し、若い世代が戦争で大勢亡くなっており、子供に未来を託すという気持ちが強かったですね。『国のシンボルがない』と言われて、国旗のモチーフや伝説を絵柄に取り入れました」
次第に国際的評価を得るように
当初、自費で始めたミヤザキさんたちの活動は次第に国際的評価を得るようになり、日本と相手国の周年事業に認定されたり、国連機関の支援を得るところまで成長。昨年訪れたウクライナでは国連の難民支援機関UNHCRと協力し、現地の子供達に加えてシリア、アフガニスタン、コンゴからの難民の子供達とも一緒になって、大きな手袋の絵を描いた。
「ウクライナの有名な童話に、寒い冬の夜、おじいさんが落とした手袋に色々な動物達が入ってきて互いに温め合うというお話があり、そこから想を得ました。
すぐには解決のつかない辛い現実を前にして、スーパーハッピーと言い切るのはある意味、逃げられないというか、勇気が要りますが、刑務所、紛争地……ハッピーがないように思える場所にも見方を変えることでハッピーになれる芽を植えられるのだと、みんなで壁画を描くことを通して体現していきたいです」
<2006年、2010年、2015年 ケニアプロジェクト>
<2017年 ウクライナプロジェクト>
ミヤザキケンスケ/1978年佐賀県生まれ。筑波大学大学院修士課程修了後、ロンドンでアート制作を開始。2006年に始めたケニアのスラムの学校に子供達と絵を描くプロジェクトが注目を集め、世界中に壁画を残す活動「Over the Wall」を主宰する。東ティモール、ウクライナに続き、今夏エクアドルで活動予定。
INFORMATION
「Over the Wall」公式サイト
www.world-mural-project.com
「Over the Wall」2018エクアドルプロジェクト
クラウドファンディング募集中(2018年5月22日まで)
https://www.kickstarter.com/projects/overthewall/over-the-wall-world-mural-project-in-ecuador-2018?lang=ja
取材・文:樋渡優子