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世界の壁に絵を描き続ける男・ミヤザキケンスケの想い

クローズアップ

2018/05/14
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ミヤザキケンスケ氏

 2006年、ケニアのスラム街にある小学校の壁に、子供達とカラフルで明るい絵を描いた画家のミヤザキケンスケさん。11年からは東北、16年に東ティモール、17年にはウクライナと、国内外の被災地や紛争地で、平和の壁画プロジェクト「Over the Wall」を続けてきた。

「今年は8月に南米のエクアドルの首都キトで活動します。これまでは現地の子供達と一緒に描いてきましたが、今回は女性刑務所・更生リハビリ施設にいる女性達と刑務所の壁に絵を描きます」

 学生時代、フジテレビの番組『あいのり』に出演。番組の企画としてフィリピンで壁に絵を描いたことが転機となった。大学を卒業し、ロンドンでストリートペインティング等をしながら2年過ごしたが、手応えを得られず、「日本に帰ったら出来ないことをしよう」とケニア最大のスラム街キベラスラムに渡った。

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 ミヤザキさんの絵の特徴は圧倒的な色彩と一目見ただけで幸せな気分になること。

「テーマは“Super Happy”です。大震災の時、福島に入り、震災後に仮設店舗で営業を始めた理容室に絵を描いた折には『こんな悲しみの時に明るい絵を描いていいのだろうか』と迷いました。でも、『元気が出たよ』という声に逆に励まされました」

 海外でもそれぞれの国が抱える“壁”は異なる。

「ケニアでは貧困に直面しましたし、東ティモールは独立に際し、若い世代が戦争で大勢亡くなっており、子供に未来を託すという気持ちが強かったですね。『国のシンボルがない』と言われて、国旗のモチーフや伝説を絵柄に取り入れました」

次第に国際的評価を得るように

 当初、自費で始めたミヤザキさんたちの活動は次第に国際的評価を得るようになり、日本と相手国の周年事業に認定されたり、国連機関の支援を得るところまで成長。昨年訪れたウクライナでは国連の難民支援機関UNHCRと協力し、現地の子供達に加えてシリア、アフガニスタン、コンゴからの難民の子供達とも一緒になって、大きな手袋の絵を描いた。

2017年、国内避難民を多数受け入れるウクライナ・マリウポリ市の壁に描いた「てぶくろ」の絵

「ウクライナの有名な童話に、寒い冬の夜、おじいさんが落とした手袋に色々な動物達が入ってきて互いに温め合うというお話があり、そこから想を得ました。

 すぐには解決のつかない辛い現実を前にして、スーパーハッピーと言い切るのはある意味、逃げられないというか、勇気が要りますが、刑務所、紛争地……ハッピーがないように思える場所にも見方を変えることでハッピーになれる芽を植えられるのだと、みんなで壁画を描くことを通して体現していきたいです」

ミヤザキさんの世界壁画プロジェクト(のちにプロジェクト名「Over the Wall(壁を越えて)」)は、最初は自費で始まった。予算により限られた滞在日数の中で、最善を尽くそうと壁に向かう。

<2006年、2010年、2015年 ケニアプロジェクト>

世界壁画プロジェクト1国めは、2006年のケニア。100万人が暮らすという最大のスラム・キベラスラムの学校の壁に生徒たちと絵を描いた。
ミヤザキさんが描く枠の中に子供たちが色を付ける。
ケニアでは2006年、2010年、2015年の計3回、活動を行ったが、3度目のプロジェクトが予定されていた2014年、小学校が火事になるという思わぬアクシデントにも見舞われた。
「Super Happy」がミヤザキさんの描く壁画のテーマ。一目見ただけで、心が明るくなる豊かな色彩と躍動感あふれる絵柄が壁に映える。
子供たちが未だ見たことのない世界各地の動物や光景を描いた「Super Happy」な壁画が完成!

<2017年 ウクライナプロジェクト>

2017年7月1日~8月2日、ミヤザキさん率いる「Over the Wall」」はウクライナ騒乱(2014年)で被害を受けた、同国東部のマリウポリ市で、壁画プロジェクトを行う。
騒乱の折に被弾した弾痕が残る学校(School NO.68)の壁に、国連の難民問題に関する機関UNHCRと協力して制作した。
ウクライナの有名な民話『てぶくろ』に題材をとった絵。
冬の寒い夜、おじいさんが落とした片方の手袋の中に、ネズミ、カエル、ウサギと……次々に動物たちが入ってきて、てぶくろはみるみる大きく膨らんでいく。

みなで身を寄せ合って温め合い、寒さをしのぐという物語。2017年は日本とウクライナの外交関係樹立25周年にあたっていた。首都キエフではもう一つ、友好の壁画をシリア、アフガニスタン、コンゴからUNHCRが招聘した難民の子供たち、ウクライナの国内避難民の子供たちと描いた。
すぐには乗り越えがたい問題や困難な状況があっても、みなで明るい壁画を描くことで光を作り出そうとする。ミヤザキさんの主宰する「Over the Wall」は2018年8月、南米のエクアドルでプロジェクトを実施予定。

ミヤザキケンスケ/1978年佐賀県生まれ。筑波大学大学院修士課程修了後、ロンドンでアート制作を開始。2006年に始めたケニアのスラムの学校に子供達と絵を描くプロジェクトが注目を集め、世界中に壁画を残す活動「Over the Wall」を主宰する。東ティモール、ウクライナに続き、今夏エクアドルで活動予定。

INFORMATION

「Over the Wall」公式サイト
www.world-mural-project.com

「Over the Wall」2018エクアドルプロジェクト 
クラウドファンディング募集中(2018年5月22日まで)
https://www.kickstarter.com/projects/overthewall/over-the-wall-world-mural-project-in-ecuador-2018?lang=ja

取材・文:樋渡優子

世界の壁に絵を描き続ける男・ミヤザキケンスケの想い

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