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トランプを連想させながらも断定させないエンタメ作品

 大統領は憲法を変え3選を果たし(アメリカの大統領の任期は2期8年までと憲法で決まっている)、FBI(米連邦捜査局)を解体し、国民に空爆を仕掛ける独裁者として描かれる。その独裁ぶりは、カダフィーやムソリーニ、チャウシェスクにたとえられる。

「ほぼ無人となったホワイトハウスから演説する孤立無援の大統領(ニック・オファーマン)」 ⓒ2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY.All Rights Reserved.

 アメリカで独裁色が強い大統領といえば、真っ先にドナルド・トランプを連想するだろう。実際、トランプは自らが独裁者となることや、3期目の大統領職に言及したこともある。大統領は憲法に縛られない特権を持つべきだ、というのもトランプの持論である。

 しかし、映画はその物語と現実の世界の間に余白を残し、観る者の断定を拒む。余白の中軸となるのは、カリフォルニア州とテキサス州の西部連合という構図。カリフォルニアはリベラルな気風が強く民主党の牙城であり、一方で、テキサスは保守的な風土で知られ共和党の地盤。実際には手を組むことのない2州に西部連合を作らせるのは、観ている側に想像の余地を与え、映画をエンターテイメントとして楽しめるようにするためだ。

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ガソリンスタンドで撮影した恐怖の写真

 ワシントンDCに向かうフォードの大型の四輪駆動に乗り込んだのは、先の3人に加え、リーの師匠であるベテラン記者のサミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)の4人。

「フォードの四駆に乗ってホワイトハウスへと向かうジャーナリスト4人組」 ⓒ2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY.All Rights Reserved.

 戦場と化した道中では、民兵が守るガソリンスタンドや、真夏にもかかわらずクリスマス装飾があふれる郊外の街での銃撃戦、内戦から忘れ去られたようなダウンタウンなどシュールで独特の世界が次々と現れる。

 印象的だったのが、民兵3人に守られたガソリンスタンドで、ガソリンを入れようとすると、断られる場面。「300ドル払うのでどうか」と問えば、「それじゃぁ、サンドウィッチがせいぜいだな」と返される。「じゃあ、カナダドルで300ドルでは」と交渉すると、ようやくガソリンを手に入れることができる。 

 世界一強い通貨である米ドルが、カナダドルに負けるというのは長引く内戦の影響で、国が疲弊し、経済が混乱し、通貨も暴落していることが端的に表れている。

 スタンド近くの納屋では、2人の男性が手足を縛られて宙吊りにされている。半殺しの男達を目の前にしたジェシーは、恐怖のあまり凍りつき足がすくむ。しかし、リーは、ライフルを持った男を宙吊りになった2人の間に立たせ、その姿を写真に収める。緊張が解けたジェシーは、次こそは自分が写真を撮る、と決意する。