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筆者自身が出会った「戦場を思わせる場面」

 私自身、同じ2020年から、アメリカ大統領選挙を取材するため、1年間、アメリカに居を移し、車で移動しながら、トランプやトランプ支持者を取材して回った。

 その間、文字通り戦場を思わせる場面に2度、立ち会った。

 最初は、黒人のジョージ・フロイドが、白人警官に絞殺された後にミネソタ州のミネアポリスで起こった暴動。抗議運動が暴徒に変わり、街を焼き尽くした。それに対し、州兵などが動員され、暴動を武力で抑え込もうとした。街の至る所に焼け跡独特の臭気が漂い、夜になると、戦車が街を制圧した。銃声が私の耳元をかすめ飛んでいったこともあった。非日常の瞬間を濃厚に味わった。

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「ミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイド事件後に州兵が州議事堂を警護する」 2020年6月1日 ©︎横田増生

 2度目は、5人の死者を出した2021年1月6日の〈連邦議会議事堂襲撃事件〉のこと。あの事件の時、連邦議会議事堂の最も近くで取材していた日本人ジャーナリストは私だった。

 ジョー・バイデンが勝利した選挙結果を確定しようとしていた連邦議会議事堂に暴徒が押し入り、議会を混乱に陥れようと、何千人のトランプ支持者が集まった。

 最初は、不意打ちが功を奏し、暴徒が優位に立ったが、時間とともに、警察や軍隊が態勢を立て直し、暴徒を押し返した。最後は、何発もの催涙弾を暴徒に放ち、蹴散らした。その暴徒の中で、催涙弾を浴びながら取材していたのが私だった。

「連邦議事堂襲撃事件で警察が群衆に閃光弾を放った直後」 2021年1月6日 ©︎横田増生

 アメリカの黒歴史として、記録される連邦議会議事堂襲撃事件はどうして起こったのか。それは、選挙で負けた後でも、不正選挙があったと言い募り、敗北宣言をしなかったトランプのせいだ。

現実のアメリカ政治の世界で

 2024年11月5日、トランプは、3度目の大統領選挙に挑む。相手は、副大統領のカマラ・ハリスだ。

 そのトランプが、演説中に狙撃され、弾丸が右耳を貫通したのは7月のこと。凶弾がほんの数センチずれたことで、トランプは命拾いをした。ボディーガードに抱えられながら、星条旗を背景に右手を高く上げた写真は、早くもピューリッツァー賞の呼び声が高い。

 狙撃直後の世論調査では、アメリカ国民の10%が、トランプが大統領になるのを阻止するために武力行使はやむを得ない、と答えている。また、7%は、トランプを大統領に再選させるためには武力行使は容認される、とする。

 現実のアメリカ政治の世界でも、暴力容認論が幅を利かせている。

 ここで重要なのは、トランプが負けた場合の身の処し方。現状では、カマラ・ハリスが一歩リードで、このまま選挙戦が進めば、トランプが負ける可能性は高い。しかし、いかなる時にも負けを認めてこなかったトランプが、今回だけ、敗北を宣言するとは考えづらい。

 前回同様に、不正選挙を言い募るなら、11月以降のアメリカが、果たして、この映画が描いたような内戦に陥らないと言い切れるだろうか。この映画が描く暗黒の近未来は、もう目の前にまで来ているのかもしれない。

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『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

10月4日(金)
TOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開
https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/