「お前たちは、どの種類のアメリカ人なんだ?」
内戦が始まった契機や理由について、映画は多くを語らない。ただ、白人至上主義が関わっているのかと連想させる場面がある。
白人のジェシー・プレモンスが演じるライフルを抱えた無慈悲な民兵を前に、ジャーナリストの一団が命乞いをする。
「俺達は、みんな同じアメリカ人じゃないか」という言葉に、
「お前たちは、どの種類のアメリカ人なんだ?」と冷笑を浮かべて民兵が問う。
1人ずつ出身地を答えていく。「フロリダ」、「ミズーリ」、「コロラド」まではよかったが、次の答えでライフルが火を吹く。移民労働者を毛嫌いするトランプ支持者が、二重写しとなる。
この民兵と出会った場所が、バージニア州のシャーロッツビルであることも暗示的だ。アメリカで、シャーロッツビルといえば、数年前に起こったKKK(クー・クラックス・クラン)などからなる白人至上主義者による威嚇行動の場所として記憶に残る。
それに抗議するデモ隊に向けて、白人至上主義者が、車で突っ込み、死者を出す事件を起こしている。事件直後、トランプが白人至上主義者たちを非難しなかったことは、アメリカの人の記憶に生々しく残っている。
ジャーナリストのルーキーが成長するロードムービー
激しい内戦を目の前にして写真を撮ることに疑問を感じ始めたリーに代わって、果敢にシャッターを切るのはジェシーだ。先輩に導かれるように、徐々に戦場カメラマンとして成長していく姿は頼もしい限りだ。旅を続ける間に、登場人物の関係性が変容し、ルーキーが独り立ちしていくのは、ロードムービーの定番の見所だ。
事実を伝え、権力を監視するジャーナリズムが正しく機能することは、独裁者や暴君が権力をふるうことの抑止力になる。よって、新しいジャーナリストが生まれてくるこの映画は、希望を未来につないでいるとも言えよう。
戦場で、落穂拾いのように事実を掬い集めるジャーナリストを主役として描いた映画には、カンボジアを舞台とした『キリング・フィールド』や、中米を舞台とした『サルバドル/遥かなる日々』などがある。
この映画は、絵空事だろうか。
まったくのフィクションにすぎないのだろうか。
監督のアレックス・ガーランドが映画の脚本を書き始めたのは、新型コロナが猛威を振るった2020年のこと。
ガーランドはこう語る。
「私は怒りと不安が入り混じった状態で脚本を書きました。そのフラストレーションは収まるどころか、次第に大きくなっていきました」