5度目の実写ドラマ化となる、内田春菊氏原作の『南くんの恋人』。現在放送中の『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系)は“男女逆転”版で、主人公のちよみを飯沼愛が、突然小さくなってしまう南くんを八木勇征が演じている。じつに34年にわたる、ドラマ版『南くんの恋人』の歴史とは。(全3回の2回目/#1#3を読む)

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初めてドラマ化されたのは1990年

 現在放送中のドラマ『南くんが恋人!?』のスタートに際し、あるベテラン女優が自らのインスタグラムで“初代ちよみ”を名乗り、《わたしの時は、来る日も来る日も日活の撮影所で/「ブルーバック」相手に、ひとりで芝居をしてました(中略)時を越えて必要とされる「南くんの恋人」/(今回は、南くんが、ですね!)/令和の皆さんにも届きますように》とのメッセージを投稿していた。

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石田ひかりのインスタグラムより

 この投稿は、『南くんの恋人』が1990年に初めてテレビドラマ化(斎藤博脚本、原隆仁監督)されたときにヒロインのちよみを演じた石田ひかり(放送当時17歳)のものだ。投稿には当時の脚本の画像も添えられていた。石田にとってもこれが初の主演作品となる。相手役の南くん(フルネームは南隆志。ただし、原作の南くんには下の名前はついていない)は工藤正貴が演じた。その後、武田真治、二宮和也、中川大志らによって演じられる南くんだが、工藤が扮した彼はメガネをかけ、歴代でもっとも原作のイメージに寄せている。

『南くんの恋人』“初代ちえみ”の石田ひかり ©時事通信社

 このときの南くんはさらにニキビ面の冴えないキャラとされ、ちよみとも幼なじみの友達からなかなか恋人になりきれない中途半端な関係だった。そんな男子が主人公になりえたのは、連続ドラマではなく、制約の比較的少ないTBSの「ドラマチック22」という単発ドラマ枠だったからなのかもしれない。石田ひかりが劇中で水着姿を披露しているのも、いかにもバブル前後のアイドルドラマらしい。

 石田が書いていたブルーバックとは、ちよみが小さくなってからのシーンを撮る際、あとから別撮りした映像に合成するために使われた背景の青い幕を指す(いわゆるクロマキー撮影)。このため、彼女は撮影中はほとんど共演相手と会わず、一人だけで演技をしていたわけである。

高橋由美子はグリーンバックの一人芝居でノイローゼ気味に…

 このあと1994年にテレビ朝日でのドラマ化で“2代目ちよみ”を演じた高橋由美子(当時20歳)も、この撮影には泣かされた。彼女の場合はブルーではなくグリーンバックだったようだが、のちにこんなふうに述懐している。

《スタッフと私だけの現場で、毎日緑色の布をバックに一人芝居だから煮詰まってノイローゼ気味になっちゃった。この前、当時のスタッフさんたちと会った時に「怖かった」と言われましたね、現場全員が沈鬱だったし(笑)。樋口真嗣さんが特殊効果で参加して以降は段々と雰囲気も良くなっていったんですが、最後に武田さん[引用者注:南くん役の武田真治(当時22歳)]と一緒にお芝居する時は「やっと会えた、真ちゃん!」って泣いちゃいましたよ》(『週刊文春』2017年5月25日号)

“2代目ちよみ”となった1994年当時の高橋由美子(『Tenderly』ジャケットより)

 ここに出てくる樋口真嗣は、のちに映画「平成ガメラシリーズ」の特技監督や『シン・ゴジラ』の監督としてその名を知られることになる。『南くんの恋人』でも当時から日本でトップレベルの特撮技術が駆使されており、いま見てもさほどチープな感じはしない。