“純愛ブーム”の中で作られた、深キョン&ニノの2004年版

 なお、原作ではちよみが小さくなった原因は一切描かれないが(ここから、主人公が朝起きると虫になっていたというカフカの小説『変身』と重ね合わせる向きもあったようだ)、岡田は交通事故に遭った衝撃で小さくなるものとして描き、これが物語でのちのち重要な意味を持つことになった。

 1994年のドラマ『南くんの恋人』は好評で、これ以降、現在までほぼ10年おきに連続ドラマ化されてきた。3回目のドラマ化(連ドラとしては2作目)となる『南くんの恋人』は2004年、前作と同じくテレビ朝日の高橋浩太郎プロデューサーが企画し、脚本を中園ミホが担当した。中園はこのときすでに『やまとなでしこ』などのドラマをヒットさせており、その後、本作と同じテレ朝の木曜夜9時台で『Doctor-X 外科医・大門未知子』という人気シリーズを手がけることになる。さらに監督陣には、後年、脚本家としてドラマ『アンフェア』(のちに自ら監督して映画化)でヒットを飛ばした佐藤嗣麻子が参加していた。

2004年版「南くんの恋人」(テレビ朝日/TELASAより)

 企画した高橋は、《かつて純愛がブームになりましたが、今また同じブームが来ている。ならば、僕らの中では10年前に完結したこの作品をもう一度やったら面白いかなと》と再ドラマ化の意図を語っている(『日経エンタテインメント!』2004年8月号)。ちょうどこの2004年には、ベストセラーとなっていた片山恭一の青春恋愛小説『世界の中心で、愛をさけぶ』が映画化に続き、『南くんの恋人』と同じ7月期にTBSでドラマ化されていた。ネット掲示板発の純愛ストーリー『電車男』が話題となり、書籍化されたのもやはりこの年である。

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 このときのドラマでは、南くん(南進)を嵐の二宮和也(当時21歳)、ちよみを深田恭子(同21歳)が演じた。両者とも若手俳優として演技力が評価されつつあったころである。深田は同じく2004年に映画『下妻物語』でロリータファッションを愛する少女を好演し、以後、現実にはありえないようなキャラクターを次々と演じることになる。

2004年公開の映画『下妻物語』での深田恭子。右は共演の土屋アンナ ©時事通信社

 その深田は『南くんの恋人』の収録中、撮影の合間には《スタジオでモニターに大きく二宮くんの手が映ってたりすると、その上に恭子が乗ってジャンプしたり、二宮くんにふ~って吹かれたら、あ~~って飛ばされてみたり…》とよく主演の二人で遊んでいたという(『ザテレビジョン』2004年6月25日号)。前回のドラマ化で、一人芝居が多くてノイローゼ気味になったという高橋由美子とはずいぶん違う。

 前作では南くんとちよみはとくに部活などはしていなかったが、このとき、彼は長距離走、ちよみは書道に打ち込んでいる設定が新たに盛り込まれ、青春ドラマの色合いがより濃くなった。そのラストも#3で後述するように、前作が原作にほぼ沿ったものだったのに対し、このときはまったく別のものになっていた。