不倫や三角関係のドラマが主流の中で
企画した高橋浩太郎は原作を単行本が出てまもなくして読み、親しくしていたプロデューサーに提案したものの、物理的に無理との理由で実現できなかったらしい。それが自らプロデューサーになって、そのころ主流だった不倫や三角関係などの恋愛ものに対し、《ひとつくらいはどんな障害も乗り越えて一人の恋人を愛し続ける、そんな純粋なラブストーリーものがあってもいいのでは》と考えると、すぐにこの作品が思い浮かんだという(『ガロ』1994年2月号)。
脚本には岡田惠和が起用された。のちに『ビーチボーイズ』『ちゅらさん』など多くのドラマをヒットさせる岡田だが、このときはまだデビューして4年足らずで、連続ドラマで全話を担当するのはこれが初めてだった。余談ながら、岡田の脚本家デビュー作となる『香港から来た女』は、奇しくも前出のTBSの「ドラマチック22」枠で『南くんの恋人』の前週に放送されていた。
家族や恋敵ら「人間関係」を物語の軸に脚色
岡田の作品には『白鳥麗子でございます!』や『イグアナの娘』など初期からマンガを脚色したものも多く、その原作の大半は連続ドラマ的なストーリー性のあまりない作品だった。『南くんの恋人』にしても、終盤に大きな展開があるとはいえ、全体的には連作の短編という性格が強い。のちにこうした原作の脚色術を、岡田は《こういった原作の場合に要求されるのは「大胆さ」。そして、ストーリーというよりは、キャラクターや、設定そのものへの愛でしょうか。つまり、その原作がつくられた基本的な精神を理解した上で、あとは思いきりよく、アレンジする。いろんな人物や出来事を加えていく》と著書で説明している(『ドラマを書く』ダイヤモンド社、1999年)
実際、岡田が脚色した『南くんの恋人』では、原作ではほとんど描かれない南くんとちよみの家族が重要な要素として登場し、青春恋愛ドラマであると同時に、ホームドラマともいえる内容となっていた。二人は前作の単発ドラマ版と同じく幼なじみであり、武田真治演じる南くんは、早くに母を亡くしたちよみを男手一つで育てながらもダンディな彼女の父(草刈正雄)に憧れている。一方で、自分の父(高田純次)には反発する生意気盛りでもあったが、ちよみと生活をともにするうちにだんだん成長していく。演じる武田はそんな役柄にふさわしく、共演の俳優たちと間の取り方などについて毎回真剣に話し合うなど、熱心に取り組んでいたという(『女性自身』1994年3月29日号)。
原作ではまた、大人びた雰囲気で南くんを惑わす野村さんという女子生徒が印象深い。最初のドラマ化では彼女を、原作に近いちょっと不良っぽいイメージで白島靖代が演じていたが、このときは高飛車なお嬢様キャラに変わり、当時「電脳アイドル」と注目されていた千葉麗子が演じた。
家族や恋敵といった人間関係はすでにドラマ1作目でも物語の軸となっていたが、2回目のドラマ化ではそこをさらに詳しく描くことで物語が広がった。このことは、岡田が30年ぶりに手がける今回の『南くんが恋人!?』を含め、その後のドラマ化でも踏襲されていく。