第62回岸田國士戯曲賞を神里雄大(かみさとゆうだい)さんの「バルパライソの長い坂をくだる話」が受賞した(同時受賞は福原充則氏「あたらしいエクスプロージョン」)。
「この名前は本名です。沖縄の苗字で、“かみざと”や“かんざと”とも読みますが、僕の父親は沖縄にルーツを持つ日系ペルー移民の子で、スペイン語では“Z”が濁らずにサ行の発音になるんです」
受賞作の題も“雄大”だ。
「文化庁の研修員としてブエノスアイレスに滞在している時に書きました」
日本社会を遠く感じる南米での暮らしの中、最初は書く軸を見失っていたという神里さん。
そんな折、景勝地イグアスの滝で、日本人母娘に出会う。
「南米研究者だった父親の遺骨を散骨にきた、という。立ち話だけで連絡先も交換しなかったけれど、こういう話を書こうかな、と思えました。僕も前年に父を外国で亡くしたばかりだったからかな」
戦前の南米移民、80年代以降の日本への出稼ぎ――様々な見聞が繋がり始める。バルパライソとは“天国の谷”という意味。世界遺産にも登録されるチリの港湾都市で、受賞作収録の同タイトル新刊(白水社)のカバー写真でカラフルな街並みを見られる。
「僕は“移動”が好き。自分には分からない言葉で喋る人々の土地への憧れがある。身体を移動させ、未知に戸惑うことには喜びがあります。ネット検索の時代だけれど、ぜひ、皆さんにも、劇場まで身体を“動かして”いただきたいんです」