私は上皇陛下にお目にかかった際、「天皇とは何だと思いますか?」という意味の質問をしたことがあります。日常生活をはじめ何もかもが一般の人とは異なり、意識も違って――などと説明されることもなく、上皇陛下はただ少し笑って困ったような顔を浮かべられるだけでした。その表情からは、天皇としてのご自覚の深さが滲み出るようでした。

 上皇后陛下である美智子さまの存在も大きかったと思います。一般の国民の立場から嫁がれた美智子さまは、皇室に新しい空気や物の見方を伝えることで、守るべき“聖”の輪郭を鮮明にしたのではないでしょうか。

 私が拝謁した際、お二人の会話のリズム、間合いが完成していたのも印象深かったです。まず上皇陛下がお話しになり、美智子さまが「そうですね」と相槌を打たれたり、「それはどういうことですか」と尋ねられたりする。阿吽の呼吸なんです。こうしてお二人で象徴天皇を作ってこられたんだなと思い至りました。

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秋篠宮家の、自己犠牲の放棄

 今上天皇にも、ご自身の役割に対する真摯な姿勢を感じます。一方で現在の天皇家には次の世代の男子がおられないことから、将来、皇位継承の順位は、弟君の秋篠宮家に移ります。

皇位継承順位第1位の秋篠宮

 本来、天皇の弟君には、大変な苦悩が付きまとうものです。私はかつて昭和天皇の弟宮・秩父宮の評伝を書きましたが、2番目に控える弟宮は「天皇になれるかもしれないが、なれるとは思うな」と矛盾に満ちた教育を受ける。自己を犠牲にしながら、天皇家を支えなければなりませんでした。

 翻って、秋篠宮殿下はそんな苦悩とは一線を引いておられるように見受けられます。果たすべき役割は果たすが、あとは自由にやる。自己犠牲を放棄することが皇室の民主化であり、「開かれた皇室」の実現にもつながるのだ、と。