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 集めた血液のサンプルには人種や年齢、性別が記され、フェアシュアーのもとに送られた。さらにメンゲレはフェアシュアーが喜ぶのではないかと思い、殺害した収容者の人体から眼球や内臓、骨格などのサンプルを集めた。フェアシュアーとメンゲレによって、アウシュビッツはおぞましい人体実験場となっていたのだ。 

人体実験場となったアウシュヴィッツ ©getty

 フェアシュアーは、血液テストによってユダヤ人を特定する試みは成果があったと報告しているが、人種というあいまいな概念を科学的に解き明かすことはそもそも無理がある。もはや彼の研究には意味はなく、ナチスの殺戮行為を正当化する根拠をあたえていただけだ。

課されたのは罰金刑のみ

 戦後、ユダヤ人の大量虐殺に加担した人物たちの多くは、連合国による軍事法廷で戦犯として裁かれたが、その中枢にいたフェアシュアーは結局、人体実験に関与していた証拠がなく、罰金のみで釈放された。優生政策を推し進めていたアメリカは、フェアシュアーの罪を問いにくかった側面もあるだろう。

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 フェアシュアーは、なにごともなかったかのようにドイツ人類学協会の会長を務めるなどして科学界に君臨し、1969年に亡くなった。

 問題が顕在化したのは1985年以降のことだ。カイザー・ヴィルヘルム協会の後継機関マックス・プランク協会は調査を進め、フェアシュアーがアウシュビッツの収容者虐殺に深く関与していたことがようやく明らかになってきたのである。