ナチス親衛隊員、それも絶滅/強制収容所の幹部職員とその家族の生活を「上昇志向アッパーミドルのタワマン族」的な角度からリアルに描いた傑作映画『関心領域』。原作小説とともに大変な評判になり、いわゆる“ナチ・戦争系”作品の固定客層にとどまらない、大きな波紋と反響を呼んだ。
イスラエルによるガザ地区攻撃の凄惨さが「ナチズムの教訓とは何なのか?」という根源的な疑問を投げかけたため、「ユダヤ人の善性」アピール込みの形でホロコーストを描くコンテンツの説得力がビミョー化してきた昨今、特に映画版『関心領域』は、ナチ側の事情と都合のみを描くことで「人間は、いかに日常の傍らにある悪や悲劇に無頓着になれるか」を観客に突きつけた。
結果として「ホロコースト系作品の最後の砦」として爆発的に評価されたのも、ある意味当然といえるだろう。
本作に関しては、すでに他媒体で原作小説にフォーカスした記事を書いたのだが、まだ全然言い足りないんですよ! という話を文春オンラインの編集氏にしたところ「じゃあ書くべし」とのことなので、さらに踏み込んだ話をここで披露させていただくのだ。
ナチスはアウシュヴィッツを「関心領域」と実際に呼んでいた!
ときに「関心領域」というタイトル、本来の意味は何なのか?
自らの関心事からちょっとでも外れていれば、そこにどんな地獄があろうと黙殺できてしまう人間の正常化バイアスのおぞましさを示す、心理的ダークサイドの核心を突く実に見事な言葉である。……がしかし、実はこの説明は半分しか正解でない。
なぜというに、実はそもそもナチス親衛隊が、アウシュヴィッツ収容所エリアをコードネーム的に「アウシュヴィッツ関心領域(Interessengebiet des KZ Auschwitz)」と実際に呼んでいた歴史的事実があるのだ。
つまりこの「関心領域」というコトバは現代的観点から見た皮肉でもなんでもなく、ナチ側自身にリアルタイムであれをそのように呼ぶだけの積極的理由があったことになる。
それは一体何なのか。興味深いことに、その「理由」「根拠」について、日本語だけでなくドイツ語・英語を使ってサーチしても、ネットからは何も出てこない。ただただ「アウシュヴィッツは『関心領域』と呼ばれており(以下略)」という既成事実が延々と示されるだけなのだ。
しかし、ナチス親衛隊がらみの他の知識を総合することで、ある程度の推測は可能だったりする。考えてみよう。