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ナチスはアウシュヴィッツを本当に「関心領域」と呼んでいた! 親衛隊員たちが収容所に興味津々だった“闇深”すぎる理由とは《田野大輔先生も登場》

ナチスはアウシュヴィッツを本当に「関心領域」と呼んでいた! 親衛隊員たちが収容所に興味津々だった“闇深”すぎる理由とは《田野大輔先生も登場》

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 さて、この極悪事業の元締めは、ナチス親衛隊の経済管理本部という部局だった。そして『関心領域』原作でも直接言及されているように、実はナチス親衛隊内には2つの対立派閥が存在した。

・経済管理本部(WVHA):ユダヤ人を労働力として活用したい派(経済重視)
・国家保安本部(RSHA):ユダヤ人をとにかく皆殺しにしたい派(イデオロギー重視)

 この対立する両者の利害を一気に解決する巨大収容所システムとして、アウシュヴィッツが整備された、という文脈が存在する。

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 それは要するに「まず最初の選別である程度殺して、生き残りは限界を超えた過酷な労働で死に至らしめる」という、WVHAとRSHAの方針の妥協点の具体化であり、それが計算通りに上手くいくかどうかの巨大実験がアウシュヴィッツで為されていたのだ。

 まさにナチス親衛隊の威信と存続が懸かった、ナチ上層部の注目を集めずにいられない壮大な実験。ゆえに「関心領域」と呼称された……と考えればいろいろ納得可能なのだ。いやまあ、人として納得していいのかという根源的な問題はあるけれど。

「関心領域」公式トレーラーより

「ベンツとかBMWとかに発揮される合理化能力が、悪のシステムに向けられると…」

マライ「……と、以上が『関心領域』深掘りなのです」(BGMはNHK『映像の世紀』のテーマ)

編集氏「やっぱナチスドイツ超ヤバいですね。ベンツとかBMWとか、機械工学で発揮される芸術的な合理化能力が、悪のシステムに向けられるとこうなってしまうとは。ところでマライさんの推測、ガチの有識者に見ていただくと実際どうなんでしょ? 世間&業界を一撃で痺れさせた『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』の田野大輔先生とか……」

 そこで、田野先生に見解をうかがってみました!

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「関心領域 Interessengebiet」については、Wikipediaのこの記事が詳しいです。

 なぜそう呼んだのかについては詳しく書いてませんが、記事から読み取れるのは、親衛隊・警察の管轄上・経済上の利害(Interesse≒関心)が絡む重要な立入制限区域という意味でこの呼称が使われていたということです。

 たとえば元々その地域に住んでいたポーランド人住民は立ち退く必要があったようです。ユダヤ人の虐殺が行われているために秘密保持が必要な区域という意味も込められていたかもしれませんが、基本的には強制労働を通じた経済活動(経済管理本部の目的)が行われる親衛隊独自の所有地という意味が大きいように思われます。

 いずれにせよ、親衛隊が使った「関心領域」という呼称が、映画ではヘスの「関心領域」、つまり平穏な家庭生活にのみ関心が向けられているという意味とのダブルミーニングになっている点は見逃せないと思います。

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編集氏「つまり、マライさんの推測は基本的に当たりっぽいっていうことですか?」

マライ「そうですね。しかも関心領域の『関心』が、どちらかといえば強制労働工場からのアガリにフォーカスしていたのでは? という見解は、本稿の趣旨をより補強するものなので、やはりそうだったのかという感じです。ドイツ語wikiは私も見ましたが、プロである田野先生の目を通すと、さすがというか、ぐっと解像度が上がるのがわかりますね」