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ナチスはアウシュヴィッツを本当に「関心領域」と呼んでいた! 親衛隊員たちが収容所に興味津々だった“闇深”すぎる理由とは《田野大輔先生も登場》

ナチスはアウシュヴィッツを本当に「関心領域」と呼んでいた! 親衛隊員たちが収容所に興味津々だった“闇深”すぎる理由とは《田野大輔先生も登場》

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 いわゆる「ガス室」の総本山としてのインパクトからつい忘れられがちだが、アウシュヴィッツ収容所の大きな特徴は「絶滅収容所と強制収容所の大規模な併存」にあった。

 ユダヤ人を殺害することのみを目的とした絶滅収容所と違って、「むりやり働かせる」強制収容所は、ぱっと見的にはインパクトで劣る。しかしナチス、それも特に親衛隊の機能と構造を考えた場合、実はこれがいろいろと見のがせない。

壁の外側では日常生活が営まれていた 「関心領域」公式サイトより

 そもそもナチス親衛隊とは何か。彼らは次第に公的な立場に食い込んで機能するようにはなったが元々はナチ党に属する私的な準軍事組織であり、法律上、国家機関たるドイツ陸海空軍よりも断然弱い立場にあった。

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 ゆえに物資や人員の調達などで(優先権がないため)常に困難に直面していた。軍服とかも通常の縫製工場で生産されるものは正規軍向けになってしまうので、自前で作らねばならない。そこで、強制収容所で親衛隊用の制服を作らせていたのだ。

 これに限らずナチス親衛隊はいろいろとインチキくさい企業体をつくって資金調達を図っており、そのへんの雰囲気が実に、暴力団がフロント企業を使ってシノギを得るやり口に似ている。似すぎている。

ドイツのよい子たちが強制労働で製造されたお菓子を食べて元気になる! という暗黒ぶり

 でもって結局、その中で最も効果的で収益率が高いのが「強制労働」事業だったという事実。そして、もともとは組織の裏ビジネス的な扱いだったのが、いつのまにかメッサーシュミット、バールセン、ジーメンスといった有名企業に囚人を「派遣」して儲けるとか凄い展開になっていくのだ。

この向きであれば「壁」も「煙突」も見えない 「関心領域」公式トレーラーより

 まさに闇金ウシジマくんの世界である。というかウシジマくんも、この「ビジネス」を眼前に突きつけられたら多少は顔色を変えるだろう。ちなみにバールセンってお菓子の会社ですよ。ドイツのよい子たちが強制労働で製造されたお菓子を食べて元気になる! とか、暗黒ぶりにもほどがある。

 そういえば、この「悪の派遣事業」の規制緩和を大々的にやったのが、つい最近まで「名だたる第三帝国の大幹部の中で、唯一イイ人だったっぽい」と言われていた軍需相アルベルト・シュペーアなのも、近現代史の裏面暴露として何気に見のがせないポイントといえるだろう。