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ワルツを副大統領候補に選んだハリスの戦略

入山 一方の副大統領候補はいかがですか? 僕は素人ながらに言うと、トランプはヴァンスを選んだのはちょっと失敗だったんじゃないかと思うところがあって。ヴァンスはミニトランプみたいな感じじゃないですか。同じような人を副大統領にしたことで支持層が広がらなかったのではないかという印象を持っているんですけど、いかがですか。

池上 これはね。つまり、民主党がバイデンのときに作った戦略なんです。ひじょうに弱々しいバイデンなら民主党が団結できない。それならむしろ共和党の票固めをすればいいんだと、似たようなヴァンスを選んでみた。そしたら、その後、敵が変わっちゃった。今はしまったと思っているでしょうね。ヴァンス副大統領候補が批判されたら、トランプが突然「いやいや、大統領選挙というのは大統領同士で見るものであって、副大統領で判断するものではない」って言い始めましたからね。

 

入山 なるほど。一方の民主党も、カマラ・ハリスが副大統領候補に選んだワルツは、私も知らない方だったんですが、動画で見ると、まず「気の良さそうなおっちゃんだな」っていうのと「やっぱり演説はうまいな」っていうのが私の印象なんですが、いかがですか?

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池上 まさにその通りですよね。彼はミネソタ州で知事をやっていたわけですけど、17歳で州兵に入っているんですね。アメリカって連邦政府軍とは別に州がそれぞれ軍隊を持っていて、州の軍隊に20年もいたんですよね。アメリカが9・11の後にアフガニスタンを攻撃しましたでしょ。アフガニスタンにアメリカ兵が大勢行ったとき、アメリカの連邦政府軍だけでは足りないので、州兵もあちこちから動員したんですよね。ワルツはそれで「私はアフガニスタンのテロとの戦いに参加したんだ」って言ってたんですけども、確かに動員されたんだけど、本人はアフガニスタンに行ってなくて、イタリアで後方支援をしていたんですよ。なので、「正確じゃないじゃないか」とか「話を盛ったんじゃないか」とちょっと叩かれているんですよ。それに対して、ヴァンスは海兵隊で本当に行ってるんですよね。

 ワルツは、州兵だったり、学校の先生をやったり、州の下院議員をずっと務めたりしてきた。政治についての経験は豊かで、あの気の良さそうなところが、いわゆるアメリカの中流の人たちから反感を買わないんですよ。言ってみれば、大統領より人気が高くなると困るんですけど、大統領を立てながら気の良いおっさんだよねっていうのが非常にいいのかなって思いますよね。

入山 今回のスイングステート、つまり票が割れそうな州のひとつが、私の住んでいたペンシルバニアです。ペンシルバニアの州知事のジョシュ・シャピロを副大統領候補にするんじゃないかという話がありました。最終的にはシャピロを選ばず、ワルツを選んだわけですが、カマラ・ハリスの戦略から見ると、ワルツのほうがいいって判断したってことですよね。

池上 これはね、たぶん悩んだんだろうと思うんです。シャピロって特にイスラエルを全面的に支援するというやり方で、民主党支持者のなかに「ちょっとやりすぎなんじゃないの?」と思っている人たちがいる。そういう人たちの反発を買いそうだという判断が最終的にあったのかなってことですね。


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