これまでの「平壌一極集中主義」で、北朝鮮の地方住民は厳しい生活を迫られていた。最近は、国際社会の制裁だけでなく、新型コロナウイルスの影響で経済に大きな痛手を被った。韓国銀行(中央銀行)の推計によれば、北朝鮮は23年実質国内総生産(GDP)が3.1%増を記録したが、22年までは3年連続でマイナス成長を記録していた。
元幹部は「最近は、一般住民だけではなく、党や政府の地方幹部まで、日常生活に支障をきたすようになっている」と語る。
厳しい暮らしを強いられている一般住民だけでなく、賄賂が横行する地方の政府や軍の幹部にまで、生活苦の波がやってきているという。こうした不満の増大を深刻にとらえた結果が、一連の地方救済策だったというわけだ。
せっかくの地方厚遇政策も評判はイマイチ。理由は…
しかし、金正恩氏が主導する一連の地方救済策も評判は芳しくない。「地方発展20×10政策」も、電気や上下水道、交通網などのインフラを整備しないまま始めたためだ。北朝鮮の中央政府は、工場の稼働に必要な原材料まで保証するとは言っていない。
このため、工場ができても十分に稼働できるかどうかは不透明だ。そもそも、金正恩氏が建設を命じた工場が、本当に地方のニーズに合ったものなのかどうかもわからないのだ。
8月に行った水害支援も既にあちこちでほころびが見えてきている。朝鮮中央通信は8月10日、金正恩氏が8日から9日にかけ、北朝鮮北西部の平安北道の被災地を再び訪問したとして44枚の写真を公開した。
その中には、金正恩氏が校庭とみられる場所に設置された、20人弱の被災者が詰め込まれた大型テントを訪れているものもあった。非常電源を使っているのか、1台の扇風機が回っていたが、他には小さな明り取りが数か所あるだけ。
平安北道の8月8、9日の最高気温は30度を超えており、テント内は相当蒸し暑い状態だったとみられる。最低気温もおよそ25度。被災者たちはプライバシーもなく、十分な睡眠もとれなかっただろう。