北朝鮮の平壌といえば、真新しいマンションが立ち並び、大規模な軍事パレードが開かれるなど首都らしい華やかさがある。一方、北朝鮮の地方都市、特に農村は荒涼とした風景が広がっている。

 今回は、中朝国境地帯で北朝鮮の地方都市を撮影し続けた韓国・東亜大学の姜東完(カン・ドンワン)教授の写真を紹介しながら、悲惨な北朝鮮の地方の実態を解き明かしていく。

北朝鮮の農村 ©時事通信社

 北朝鮮の地方の様子について、実際に訪れた韓国政府関係者らに尋ねると、好意的な人で「50年前の韓国のような世界」、厳しく見る人によっては、「もっと前、朝鮮戦争(約70年前)直後の状態」と説明する。

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 十数年前、別の韓国政府元高官が北朝鮮の農村を訪れた際には、村には舗装された道路はなく、田畑には雑草が生い茂っていたという。家屋には壁紙はなく、人々はむき出しの土壁のなかに住んでおり、土間には木の枝などで煮炊きする(かまど)があったという。

 北朝鮮の地方で暮らした複数の脱北者たちも、脱北するまでは「エスカレーター」「自動ドア」「動く列車」を実際に見たことがないと語った。

川や井戸水で洗濯、長屋のような「ハーモニカ住宅」で生活

 北朝鮮の地方のインフラは前近代的で、上下水道がほとんど整備されていない。人々は町のあちこちに設置した井戸から水を汲んで使う。住居は「ハーモニカ住宅」と呼ばれる、長屋を複数の世帯で区切って使うのが一般的だ。狭いため、屋内に風呂やトイレはついていない。

 人々は川や井戸の水で体を洗い、そこで洗濯もする。用を足すには屋外の共用トイレを使うが、衛生状態が悪いため、伝染病もよく発生する。

中朝国境沿いにある北朝鮮の住宅。一軒に複数の世帯が住んでいる=姜東完教授提供

 電気事情も最悪だ。北朝鮮が主力にする水力発電の稼働状態が比較的良い夏場でも、朝夕の食事時間帯くらいに数時間ずつ通電するだけだ。河川が凍結して水力発電の発電量が落ちる冬季は、何日間も電気が来ないケースも多い。

 地方出身の脱北者は「日が暮れたら、油に灯をともすくらいがせいぜい。もちろん、テレビも見られない。本を読むのも簡単ではないし、文化的な生活はできない」と話す。

 地方民は電気、水道がほとんど使えないだけではなく、厳しい移動制限が敷かれている。基本的に自分が住む郡部を出る際は、「旅行許可証」が必要になり、列車や市外に行くバスの切符を買う際には、旅行許可証の提示が求められる。