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「被災者の平壌招待」も効果は限定的

 このほかにも、金正恩氏が訪れたテントで大型段ボールに入った駄菓子類を子どもたちに配ったり、女の子には服もプレゼントしている様子が報じられていた。ただ、写真を見る限り、仮設トイレや炊事場などの存在は確認できなかった。ここで何日もの間、生活するのは限界があるだろう。

水害被災地で子供たちに囲まれる金正恩氏 ©朝鮮通信=時事

 写真をみた上述の元党幹部は「このテントは軍用。軍が応急措置として被災者用に提供したのだろう。日米韓なら、公共の施設を開放し、防災グッズを支給するのが当たり前。(北朝鮮には)給水車も仮設トイレもない。北朝鮮は防災でも遅れに遅れている」と語る。

 これまで、中央政府は平壌中心主義、軍事中心主義に走ってきたため、地方の福利厚生や防災面での不備を露呈した格好だ。

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2019年7月、中朝国境を流れる鴨緑江沿いにある北朝鮮の村。様々な人が共同の井戸(中央)を利用していた=姜東完教授提供

 金正恩氏が打ち出した「被災者の平壌招待」も効果は限定的のようだ。元党幹部は「被災者を平壌で預かったのは、確かに異例で破格の措置。ただ1万5000人だけでは、すべての被災者を収容したことにはならない」と指摘する。

 韓国政府も死者・行方不明者だけで1000人を超えるとみており、被災者は相当な規模に上るとみられる。元幹部は「平壌に行けるのは、出身成分(北朝鮮独自の身分制度)が良くて、思想に問題がないと思われる家庭の出身者だけだろう」と話す。

金正恩と一緒に写真に収まる「誉れ」と「リスク」

 朝鮮中央通信は8月16、17の両日、金正恩氏が被災した児童と食事で交流したり、学用品を渡したりする写真を公開した。だが、晴れて平壌に招待された被災者にも、実はある「リスク」が生まれたと元党幹部は指摘する。

「最高指導者と一緒に写真に収まることは家門の誉れであり、その後も様々な恩恵に浴する機会を得たと言えるが、同時に撮影された人々にも責任が生じる。問題を起こせば、最高指導者の権威を傷つけることになるからだ」

 さらに、「地方幹部にしてみれば、問題を起こしそうな家庭の被災者など、怖くて平壌に送り込めない」と元党幹部は言う。

 結局、金正恩氏が地方を重視する政策をいくら推進しても、小手先に過ぎない結果になるほど、北朝鮮の地方格差と貧困の問題は根深い。金正恩氏はすでに“敵対する日米韓”という国家だけでなく、“韓流ドラマなど外国文化に影響されやすい自国民”という「内なる敵」にも囲まれている。ここに来て、さらに「地方」という3番目の敵も加わったようだ。