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――難しい役でも、三ツ矢さんならできるだろう、と?

三ツ矢 はい。「これは難役だろう」という仕事も結構ありましたけど、ちゃんと応えて結果を出したという自負はあります。

 昭和のアニメ作品にゲイキャラクターはまず登場しないので、僕は「ストレート(異性愛者)の男性」を演じることが圧倒的に多いわけです。でも、「声優・三ツ矢雄二」として高いクオリティの仕事をしていれば、僕のプライベートな部分は関係ない。周りが「三ツ矢雄二はゲイ」とわかったうえで、声優として評価してくれたんです。

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©橋本篤/文藝春秋

あの時代にデビューしたからいろんな仕事ができた

――1970年代の声優業界は、想像以上に実力主義のフェアな世界だったんですね。

三ツ矢 でも、ときどき思うんですよ。僕はデビューがあと10年早くても遅くても、今の自分はなかっただろうと。

三ツ矢さんが26歳の頃の『ラブジャングル』のジャケット写真

――どういうことでしょう?

三ツ矢 もし僕が今の時代に新人声優だったら、たぶんカミングアウトすると思います。でも、キャリアゼロの新人声優・三ツ矢雄二がゲイだと世間に広く知られたら、たとえば僕が「ストレートの二枚目モテモテ男子」役を演じたとき、視聴者の中には「あの声をやっている三ツ矢雄二はゲイなんだ……」と、余計なことを連想する人も出てきますよね。そうすると、作り手は僕を起用しにくくなってしまう。

 だから、1人のゲイとして生きるのは、昔より今のほうがすごく楽ですけど、声優のキャリアとしては違うものになっていた気がしますね。

――三ツ矢さんは「自分は〈グレーゾーン〉」と言っていましたが、2017年のテレビで意図せず「カミングアウト」したのは大丈夫でしたか?

三ツ矢 僕はずっと〈グレーゾーン〉のままでもよかったんですよ。ただ、ある番組で「三ツ矢さんは結局、ゲイなの? どっちなの?」と聞かれて、ウソはつけないから「どちらかといえばゲイです」と。それをマスコミに「三ツ矢雄二がカミングアウト!」と大げさに切り取られて。

 僕自身もその反響に驚いたし、昔から僕を知っている声優仲間には「今さらどうしたの?」と言われました(笑)。