『タッチ』の上杉達也、『キテレツ大百科』のトンガリなど、数多くの役を演じてきた声優の三ツ矢雄二さん(69)。2017年にテレビ番組で「どちらかといえばゲイです」と話し、“カミングアウトだ!”と話題になった。

 しかし、三ツ矢さんはそれまでにも自身の性的指向を〈グレーゾーン〉と表現しており、「声優仲間はみんな知ってたから」と、カミングアウトした意識もなかったという。

 三ツ矢さんが声優を始めた1970年代に、ゲイであることをオープンにするのはどんな苦労があったのだろうか。当時の声優業界の雰囲気や、10年以上同棲した恋人との劇的な別れなどを聞いた。(全3本の1本目/2本目を読む

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©橋本篤/文藝春秋

「『迎えに来る人は誰?』と聞かれたら『彼です』と普通に答えていました」

――三ツ矢さんは2017年、テレビでゲイであることをカミングアウトしたと話題になりました。それまでは、周りの人にも隠していたのですか。 

三ツ矢雄二さん(以下、三ツ矢) いえ、たぶん僕は物心ついたときから男性が好きで、小学校高学年の頃には自覚していましたが、それを隠したことは一度もないんです。だから、カミングアウトと言われても変な気持ちでした。

 僕、いわゆるカミングアウトって、これまでの人生で1回もしたことないんですよ。親にも。

――そうなんですか?

三ツ矢 大学時代に1年先輩の男性と付き合い始めて、ずっと同棲していたんですが、30代のときに彼を連れて帰省したことがあるんです。そのとき、彼が僕をあまりにかいがいしく世話するので、親もピンと来たんだと思います。

 あとで母親から「雄ちゃんは、結婚せんでええからね」と言われて。別に怒られも泣かれもしませんでした。小学校の演劇で僕がお姫様役をやった頃から、なんとなくわかってはいたんでしょうね。

大学生の頃の三ツ矢さん。美青年(本人提供)

――ではカミングアウトではなく、するっと。

三ツ矢 ええ。22歳で声優デビューしたあとは、彼がスタジオへ送迎してくれていたんです。僕から積極的に彼との関係を公表しなくても、周囲に「三ツ矢を迎えに来る人は誰?」と聞かれたら「彼です」と普通に答えていました。だから、スタッフや声優仲間は徐々に知っていったんだろうと思います。