『タッチ』の上杉達也など多くの役を演じてきた声優の三ツ矢雄二さん(69)は、自分のことを「何でも屋です」と表現する。

『テニスの王子様』『マッシュル-MASHLE-』など、三ツ矢さんが2.5次元舞台に作詞した数は1000曲近い。また、日本初のBLボイスドラマといわれる『鼓ヶ淵』の脚本・主演も務めるなど、一大カルチャーに育ったジャンルの“親”ともいえる存在だ。

 ゲイというセクシュアリティと仕事の関係、そして1980~90年代エンタメ界の作り手としての思いを聞いた。(全3本の2本目/3本目を読む

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©橋本篤/文藝春秋

――三ツ矢さんは1980年代に『タッチ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズなど声優として大活躍しましたが、中でも異色なのが、超売れっ子だった30代に『鼓ヶ淵』という〈耳で聴くBL〉に出演したことです。この『鼓ヶ淵』がBLボイスドラマの元祖というのは、本当ですか?

日本初の〈聴くBL〉といわれるカセットJUNEの『鼓ヶ淵』

「はい、日本初の〈聴くBL〉をつくったのは僕です」

三ツ矢雄二さん(以下、三ツ矢) はい、日本初の〈聴くBL〉をつくったのは僕です。当時、『JUNE(ジュネ)』という女性向けの男性同性愛専門誌があったんですよ。まだBLという言葉はなく「やおい」や「お耽美」と言われていて、若かった頃の僕は美少年で売っていたので(笑)、『JUNE』から取材依頼が来たんです。

――今もですが、当時の三ツ矢さんはすごくナイーブな美少年という雰囲気です。

三ツ矢 その『JUNE』の取材中、編集長の佐川俊彦さんから「こんな小説が出るから読んでみて」と渡されたのが、『鼓ヶ淵』の原作でした。彼が「今度これを音声ドラマにしたいんだ」と言うので「面白いですね」と答えたら、「三ツ矢さんにぜひ、脚本を書いてほしい」と頼まれて。

 で、脚本を書いたら、今度は「声優として出演してほしい」と頼まれて「わかりました、やります」と。それが、音声をカセットテープに録音した〈カセットJUNE〉というシリーズです。ドラマCDや配信ボイスドラマの元祖ですね。

――『鼓ヶ淵』で、三ツ矢さんの相手役は鈴置洋孝さん(声優。代表作に『機動戦士ガンダム』のブライト・ノア役など。2006年没)ですが、お2人とも当時すでに大人気声優ですよね。その2人が同性愛作品の声をあてるというのは、声優ファンも騒然となったのでは。

三ツ矢さんが26歳の頃、『シナモンの香り』ジャケット(1980年発売)

三ツ矢 鈴置さんをキャスティングしたのは製作会社ですが、とても画期的だったと思います。僕から彼に直接「今度『鼓ヶ淵』に出てよ」とお願いして、「わかった」というやりとりもあったので、彼はオファーを受けてくれたのかもしれません。