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――収録はどんな雰囲気だったのでしょう?

三ツ矢 『鼓ヶ淵』は、収録してみたら結構大変だったんですよ。僕と鈴置さんがカップルで、ベッドシーンも声と息遣いだけで表現しなきゃいけないでしょう。

©橋本篤/文藝春秋

――今でこそBL作品はあふれていますが、当時は参考にする先行作品もなかったんですよね。

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「鈴置が訳のわからない息遣いを入れてくるんですよ(笑)」

三ツ矢 そうなんです。だから、制作側も男同士のベッドシーンがどういうものかよくわかってなくて、「三ツ矢ならわかるだろう」と思われた可能性は否めません(笑)。

 鈴置も「おい三ツ矢、どうすればいいんだ?」と言うから、「女の人とするつもりで、普通にやればいいんじゃない?」と答えたんです。それで本番を録り始めたら、横にいる鈴置が「ぅうゔぅん、うぅん!!」みたいな、訳のわからない息遣いを入れてくるんですよ(笑)。

――何をしている声なんでしょう……(笑)。

三ツ矢 僕はウケの役だったんですが、「おいおい今、何されたんだ⁉」と戸惑いながら演技したのは、今も覚えてます。「鈴置って、普段もそんな感じなの?」みたいな(笑)。でも、新しいものをつくってるんだという手ごたえがあったし、楽しかったですね。

©橋本篤/文藝春秋

――この時代に「同性愛者役」の仕事を受けるのは、イメージダウンになるかも……という心配はありませんでしたか?

三ツ矢 自分がゲイかどうかはさておき、そういう不安はなかったです。耳で聴くドラマって、戦後からラジオドラマはずっとありましたが、1980年代は急に減ったんですよ。だから代わりに、こういうボイスドラマがあってもいいかなと。

 それに「BL=エロ」と曲解されがちですが、『鼓ヶ淵』は最初から最後までセックスしてるわけじゃないんですよ。話の流れの中にベッドシーンがあるだけで。だから恥じるところはないし、この〈カセットJUNE〉シリーズはすべて、三ツ矢雄二の名前で出演しています。

――では『鼓ヶ淵』の脚本で「花枕桃次」という別名を使っているのは、理由があったのですか?

三ツ矢 これは『鼓ヶ淵』の少し前、戸田恵子さんたちとミュージカルをやったときに作詞家として使った名前なんです。脚本家は裏方だから、別の名前がいいかなと思った名残ですね。

 それにしてもあの頃は、BLがこんな大ブームになるとは思いませんでした。