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――性別は別としても、三ツ矢さんの演技の幅が広くて、とても繊細なことはわかる気がします。

三ツ矢 演劇雑誌を依頼されたときも、「三ツ矢さんはミュージカルもストレートプレイもわかっているプロだから」と言われましたが、その中には“ゲイは芝居やミュージカルなどのステージカルチャー好きが多いよね”という意識も混ざっていたと思います。実際、僕は舞台を見るのも出るのも大好きなので、喜んで引き受けました。

――女性のお客さんが多い2.5次元舞台をつくるのも、似たような感覚なのでしょうか。

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三ツ矢 「ジャニーズ」も『聖闘士星矢』も、観客は完全に女の子なんですよ。だから、オファー時は「女の子の気持ちを理解したうえで、ウケる内容にしてほしい」と言われました。脚本を書くうえでも、男性を恋愛目線で見る感覚がわかるゲイの感覚は、プラスに働いたと思います。

「幕が開く前の客席が怖いくらい静か」だった『テニミュ』の第1回公演

――そういえば、三ツ矢さんはミュージカル『テニスの王子様』(テニミュ)も立ち上げから参加されているんですよね。

ミュージカル『テニスの王子様』シリーズはすでに20年の歴史を持つ(公式サイトより)

三ツ矢 『テニミュ』は第1作から20年間、脚本や作詞をしています。最初にオファーをもらってマンガを読んだら、登場人物は男ばかりで、ひたすらテニスをしてるんですよ。「え? これを脚本にするの?」って思いました(笑)。

 初演の緊張感はいまだに覚えています。東京芸術劇場のホールで、お客さんが7割ぐらい入っていて。なのに、幕が開く前の客席が怖いくらい静かなんですよ。つまり、原作ファンの女の子たちが「私たちの愛する『テニプリ』を、どんな舞台にしようってわけ⁉」と、品定めに来ていたんです。

――たしかに初演だと、観客は何がどう出てくるのか、全くわからない状態ですよね。

三ツ矢 そうなんです。楽しみというより「どんな舞台になっているか、この目で確かめてやろう」みたいな、ちょっと異様な感じでした。

 でも、1曲目が終わった途端にすごい拍手が起きて、そこから手拍子が止まらなくなりました。それで1幕が終わったら、お客さんがみんなロビーに出て、携帯でダーッと何か文字を打ってるんですよ。たぶん「すごいことが起きてる」と感想を送ってたんだと思います。その後は公演を重ねるたびにお客さんが増えて、もう20年続いてるんです。

――その『テニミュ』の歌詞のほとんどを、三ツ矢さんが書いているというのも驚きです。

©橋本篤/文藝春秋

三ツ矢 たぶん、『テニミュ』だけで500曲近いと思います。テニスの試合シーンの歌なら、原作にある試合のセリフを使えるんですけど、難しいのはキャラクターの心情が表れる歌なんです。『テニミュ』ファンが求めているのは「男性キャラクター同士の、友情なのか親愛なのか愛情なのかわからない複雑な感情」のようなもので、これは原作ではあまり描写されていない部分でもありますから。

――そこに、三ツ矢さんがゲイであることは活きていますか?

三ツ矢 ゲイだから女の子の気持ちがわかるというよりは、僕自身が素直に思ったことを詞にのせています。「この人は、本当はこういう気持ちなんじゃないかな」と翻訳するような感じ。

 僕は約50年間アニメの仕事をしてきて、自分自身も80年代のアニメブームで、ちょっとしたアイドルのように騒がれた経験があるでしょう? だから、2次元や2.5次元ファンの人たちが求めているものは、肌感覚でわかるんですよ。作詞は一番「三ツ矢雄二らしさ」が発揮できるので、アニメをやってきてよかったと思う仕事のひとつですが、ゲイであること以外にもいろんな経験が活かされていると思いますね。