――三ツ矢さんは30代から40代にかけて、超売れっ子声優でありながら演劇雑誌の編集長になったり、アニメの音響監督をしたり、舞台の演出や脚本を手掛けています。そういったキャリアの積み重ねには、何か狙いがあったのですか?
三ツ矢 実は『鼓ヶ淵』も含めて、声優以外に自分から「やりたい」と言った仕事はひとつもなく、すべて「頼まれたから」なんです。
初めて音響監督をやったのも、『るろうに剣心』(1996)がアニメになるときにプロデューサーから主役のキャスティングを相談されたのがきっかけ。僕はそのとき、宝塚を辞めたばかりの涼風真世さんの名前を挙げたんですよ。
実際に彼女が主人公の剣心役に決まったものの、声優は未経験なので、収録方法などを誰かが教えなきゃいけない。それで「宝塚とアニメを知っていて、演技指導もできるのはおまえしかいない。音響監督をやってくれ」と頼まれたんです。
――スタッフからの信頼がすごいです。
三ツ矢 『ソワレ』という雑誌の編集長になったのも「演劇雑誌をつくるので、舞台のプロでもある三ツ矢さんに相談にのってほしい」と頼まれたのがきっかけでした。1990年に創刊したんですが、次の年に「ジャニーズからデビューするSMAPというグループが『聖闘士星矢』のミュージカルをやるんだけど」という話がきて。
――SMAPにそんな時代が。
三ツ矢 「そのミュージカルの脚本と出演をお願いしたい」と言われて、引き受けたんです。たぶんそれで「三ツ矢は舞台脚本もいける」と業界の人たちに思われたようで、『赤ずきんチャチャ』や『少女革命ウテナ』など、2.5次元舞台の脚本や演出の依頼がくるようになりました。
お仕事をくれたのはだいたい、声優として一緒に仕事をしたプロデューサーやディレクターで、「これは三ツ矢ができそうだから」とオファーしてくれたんです。
「ゲイの人全員が繊細で、感性に優れてるとかじゃないんですよ。それは僕が一番知ってます(笑)」
――三ツ矢さんが声優として、現場で後輩に何かを教えたり、スタッフとコミュニケーションをとる中で信頼されるようになったんですね。
三ツ矢 もちろんそれもあるでしょうけど、「三ツ矢はゲイだから、この仕事ができるんじゃないか」と思ってもらった部分は、間違いなくあると思うんですよね。
――「ゲイだからできるだろう」というのは、偏見に近い感じもしますが。
三ツ矢 もちろん、ゲイの人たち全員が繊細で、感性に優れてるとかじゃないんですよ。それは僕が一番知ってます(笑)。だから僕自身は「自分がゲイだから、この仕事が向いてる」と思ったことはありません。
ただ、たとえば『るろうに剣心』で僕が起用されたときに言われたのは、「涼風さんは女性で、宝塚では男役で、でもアニメで男性を演じるのは初めて。だから、涼風さんの本心と役の間にあるギャップを埋めてほしい」ということでした。つまり、「三ツ矢なら、女性心理も男性心理もある程度わかるだろう」と期待してもらったんです。