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――三ツ矢さんが声優デビューした1970年代は、まだ「同性愛者である」と世間にオープンしにくい時代だったのでは?

三ツ矢 僕はそれで嫌な思いをしたことは、一度もないんですよね。当時はゲイではなくホモと言ってましたが、周囲に「三ツ矢はホモだから……」のように言ってくる人は1人もいませんでした。人の本心はわからないけど、ちゃんと仕事していれば皆さんよくしてくれたし、飲み会にも必ず誘われていたので、仲間外れにされた記憶もまったくないです。

――それは意外です。

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三ツ矢 自分で言うのもなんですが、僕は「明るく陽気な三ツ矢くん」だったんですよ。スタジオでもワーッて冗談言ったり、はしゃいで踊ったりして、先輩に「三ツ矢くんがいると面白いけど、ホコリが立つんだよ」と言われたくらい(笑)。だから、ペットのような感じで面白がってくれたのかもしれません。

©橋本篤/文藝春秋

――当時は、セクハラなども今よりキツかったのかと思っていました。

三ツ矢 もちろん、今なら完全にアウトなセクハラはいっぱいありましたよ。セクハラで有名だった声優Oさんには、「女の子のお尻もかわいい、三ツ矢くんのお尻もかわいい」とか言われて、「そう見られていたか……」みたいな(笑)。でも僕は、そういうのも嫌とは思わなかったんですよね。

――三ツ矢さんのコミュ力が高すぎます。

「三ツ矢はゲイだから、他の男性声優と違う感覚があって…」というカン違い

三ツ矢 ただ、ある人に「みんなが三ツ矢を認めているのは、おまえが仕事でちゃんと結果を残してるからだよ」と言われたのは、印象に残ってます。

 自画自賛だけど、若い頃の僕はまったくトチらなかったんですよ。それに僕は12歳から子役を始めて、舞台の世界でも蜷川幸雄さんなどから訓練を受けていたので、役者として「演じる」こと自体はわかっていた。だから新人声優だったけど、キャラクターによってすぐ演技を変えられたし、絵の口の動きに台詞を合わせるのも上手かったんです。それでスタッフに面白がられて、いろいろな作品で使ってもらえたんだと思います。

――三ツ矢さんは『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976年)の主役で声優デビューして以来、すぐに多くの作品で主演する売れっ子になっていますね。

三ツ矢さんが主演デビューした『超電磁ロボ コン・バトラーV』はゲームなどでも大人気

三ツ矢 それはたぶん、ちょっとした“勘違い”もあったんだと思うんですよ。

――勘違い?

三ツ矢 僕が声優としてたくさん仕事ができたのは、周りのスタッフが「三ツ矢はゲイだから、他の男性声優と違う感覚があって、細かい芝居ができるだろう」と期待してくれたからだと思うんです。

 もちろん、ゲイの人全員が繊細なわけじゃないですよ。でも「そう期待されて僕にこの仕事が来たんだろうな」ということは、わりとありましたね。