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こんな取材者にマジになっちゃってどうするの

安田 でも、正直言って中国で取材妨害をされたりスパイ扱いをされるのって違和感がありますよね。私も西谷さんも、イデオロギーとかないじゃないですか。「中国はもっと民主的で自由になるべきだ」「中国政府の問題点は広く伝えられるべきだ」みたいな考えすら、多少は感じてもそこまで確固として思っているわけではない。

西谷 ですよね。中国政府としては、「取材活動」をすべて自分たちの管理下に置きたいってことなんでしょうけど……。普段取材するときには、そんな堅苦しいことまで考えてないですね。

安田 「ジャーナリズムの責務」とか「ノンフィクションの未来」みたいなものを絶対的な正義みたいに考えることも一種のイデオロギーに近いと思うんですが、そういうのもあんまり持ってない。

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西谷 そうですね。そういうのはちょっと頭でっかちすぎる気がしますね。

安田 なにかを追いかけているときに考えるのって、せいぜい「面白いから」ぐらいですよね。あとは「空振りしたら次の仕事が来ないからなんとかしなきゃ」くらい。

西谷 ネタ取って帰らないと取材費が自腹になっちゃうからヤバい(笑)、とかですね。

安田 ゆえに、中国のしかるべき機関に対して感じるのは、「俺たちは実際のところ、こんなに適当なスタンスでウロウロしているだけなのに、なぜ彼らはあんなに必死に対処して、隠そうとするのか」なんです。中国を責めるとすれば、私はこの点を最も責めたい。

それでも「面白い」中国を追え!

西谷 でも、安田さんの今度の本は際どいじゃないですか。テーマが天安門事件で、タイトルが『八九六四』でしょ? 日本国内の中華料理店ですら、タイトルを小声で言わなきゃいけない本とか、ヤバいですよ(注:この対談は神保町の中華料理店でおこなった。1989年6月4日に起きた天安門事件は、今も中国国内では「口にしてはならない言葉」であり、毎年6月4日前後の中国では治安警備が強化され、スマホ決済の送金すら「六四」「八九六四」元の金額指定が不可能になるほどなのである)。

八九六四 「天安門事件」は再び起きるか

安田 峰俊(著)

KADOKAWA
2018年5月18日 発売

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安田 テーマは思い切りタブーなんですが、内容は結構シンプルなんですよ。50歳前後の中国人って、酔っ払ったりすると「俺も天安門の頃はヤンチャして」とか、武勇伝をやたらに語りたがるじゃないですか。その彼らに「じゃあ、なんでいまはやらないんですか?」「本当はあのとき何をやっていたんですか」と聞いていくという。

西谷 理由は「面白いから」ですか?

安田 ですよ。最初は「若い頃の俺たちは輝いていた」とめちゃくちゃイキっていた人が「でも、いまは女房子どもがいるし会社経営しているし不動産持ってるし……」とショボショボっとなっていったり、逆に「俺は明日デモが起きても行く!」と豪語する人が、天安門事件当時はなにもやっていない人だったり。純粋な意味で、現代の中国のおっさんおばはんの素顔や、天安門事件がもう起きそうにない理由がディープに垣間見られて「面白い」。

西谷 中国あるあるですね。普通の報道ではあまり拾われない、意識の低い証言という。でも、そこにリアルがありそうな。

安田 西谷さんの『ルポ 中国「潜入バイト」日記』もそうじゃないですか。パクリ遊園地の同僚の女の子のヤンリンちゃんが、明らかに著作権法違反の「七人の小人」の着ぐるみを本気でカワイイものとして扱っている様子とか、すごく生々しい中国社会のリアルですよ。意識の低いリアル。

ルポ 中国「潜入バイト」日記 (小学館新書)

西谷 格(著)

小学館
2018年3月29日 発売

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西谷 確かにパクリ遊園地は、働くときも「はいはーい」みたいな謎の二つ返事で採用されたりとか、全体的にユルい感じが最高でしたね。やっぱり、メディアにはなかなか出てこない姿というか。でも、むしろ中国の泥臭い社会にはああいうノリの人たちのほうが多い。

安田 最近は中国のニュースって、習近平の独裁とか北朝鮮問題とかのめっちゃカタい話か、中国のイノベーションすごい、深センのベンチャーすごいみたいな意識の高い話が多いじゃないですか。でも、現地に行くともっとグダグダしているというか、ほどよくダメな感じも混じっているのが実際の中国なわけで。

西谷 それを伝えるのは確かに「面白い」仕事ですよね。

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安田峰俊(やすだ・みねとし)/1982年滋賀県生まれ。ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員研究員。中国の歴史や政治ネタからIT・経済・B級ニュースまでなんでもあつかう雑食系だが、本業はハードなノンフィクションのつもり。著書に『和僑』『境界の民』(KADOKAWA)、『野心 郭台銘伝』(プレジデント社)、編訳書に『「暗黒・中国」からの脱出』(文春新書)など。なお、『八九六四』刊行を前にツイッターのプロフィールを習近平主席礼賛アカウントに変更した。

 

西谷格(にしたに・ただす)/1981年神奈川県生まれ。フリーライター。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。『SAPIO』『週刊ポスト』『週刊新潮』など、各種雑誌媒体でも活躍中。著書に『この手紙、とどけ! 106歳の日本人教師が88歳の台湾人生徒と再会するまで』(小学館)など。2009年から2015年まで上海に在住し、中国の現状をレポートした 。なお、シャツは『ルポ 中国「潜入バイト」日記』の刊行後に特注で作った。