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観終わって残る不思議な爽快感

 自宅での42日間の看取りは、訪問ケアのスタッフに助けられたとはいえ、幸子さんなしにはできなかった。これをどう見るかは人によって違いが出るのではないか。幸子さんが夫を精一杯介護した姿を“献身的”と受け止める人もいるだろうし、「これだけのことは自分にはできない」という思いを抱く人もいそうな気がする。

 事実を赤裸々に描くため、撮られる相手の心と体をえぐるような残酷さ。ドキュメンタリーの本質と、取材の持つ根源的な罪深さを久しぶりに実感した。私自身はもちろんドキュメンタリーに関わってきた人すべてに共通だろう。

 

 看取りの現実をあるがままに伝えるという目的を、映画は見事に果たしている。だからこそタイトルは『わたしの』ではなく『あなたのおみとり』なのだろう。それだけに観ていて疲れてしまう部分もあるのだが、そんな思いをスーッと晴らしてくれるシーンが最後の最後に用意されている。人が死を迎える姿を克明に描き切りながら、観終わって不思議な爽快感が残るのは、ラストシーンに監督の両親への愛情が込められているからに違いない。

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『あなたのおみとり』
 家での最期を希望した父と、看取りを決意した母。息子のカメラが映し出す、戸惑いと焦燥、驚きと喜び、感謝と労い……。生と死に向き合う日々をありのままにみつめたドキュメンタリー。

製作・監督・撮影・編集:村上浩康/出演:村上壮、村上幸子/2024/日本/95分/©EIGA no MURA/ポレポレ東中野ほか公開中