ニュース番組のキャストのタレント化
おぐら 極楽とんぼの山本圭壱が問題を起こしたとき、朝の『スッキリ!!』(番組名は当時、日本テレビ)で加藤浩次が涙ながらに謝罪をしている姿を見たときに、もはやいち芸人の不祥事では済まされないんだなって思いました。
速水 そう。ニュース番組のキャストのタレント化は、今に始まったことではない。芸人がワイドショーや情報番組のコメンテーターをやるのもいまや定番で、吉本興業だって同じような立場だよね。
おぐら 近年の吉本興業は、国連の「SDGs(Sustainable Development Goals)=持続可能な開発目標」に積極的に参加していたり、社会貢献への取り組みが加速しています。
速水 芸能事務所の立場も変わってきている。そうだ、話がでかくなっている話題でいうなら、オスカープロモーションが去年、宇宙事業開発本部をつくった。これは本当に意味がわからない。
おぐら ホームページには〈弊社では、地球にとどまらず宇宙に広がる「美文化の創造」と、今後訪れるであろう宇宙時代の未来に向けた「人的ソフト戦略」を軸に、宇宙ビジネスを大きくサポートし、宇宙産業との様々なコラボレーションを図って参ります〉と書いてありますね。
速水 多分、全宇宙的美少女コンテストをやりたいんじゃないかなぁ?
おぐら 多様性を追求した結果、宇宙へ。
速水 最近オスカーは、社員の大量退社が問題になってるけど、こうした経営の多角化も、その原因のひとつになってそう。宇宙人ならスキャンダルとかないって思ってたりして。人間はどうしたってスキャンダルを起こすでしょ。
おぐら 好感度というか、タレントイメージの純度が上がれば上がるほど、大企業のCMに起用されたりしてギャラも上がりますが、同時に問題を起こしたときのリスクも上がりますよね。それこそアイドル的な存在になると、清廉性を高めることで存在価値を上げているぶん、色恋沙汰一発でアウトになったり。
速水 芸能タレントに求められる資質が清廉潔白さや生真面目さとかになっていくと、それは何がおもしろいんだろうってなっていくだろうね。でも今の流れはそうならざるを得ないっていう。
おぐら だけど、どうしたってはみ出す人は出てきちゃいますよ。
速水 かつてのKAT-TUNにおける赤西(仁)くんとか田中聖くんとかはまさにそうだよね。全体的によい子感のあるジャニーズ事務所内で、そうじゃないのを集めてメンバーを組んだら半分辞めちゃったという(笑)。
おぐら 関ジャニ∞の渋谷すばるも「この先は今までの環境ではなく、全て自分自身の責任下で」「海外で音楽を学び、今後さらに自分の音楽というものを深く追求していきたい」と言って退所しますね。
速水 その件も含めて、ジャニーズ事務所の立ち位置って、かつてのものとは変わりつつあるんだろうなあ。
ダサいくらいなんだよ、我慢しろよ!
おぐら 朝ドラの『あまちゃん』を思い出しますよ。「もうアイドルとかどうでもいい」「だってダサいじゃん」と言うユイに向かって、アキが言うんです。「ダサいくらいなんだよ、我慢しろよ!」って。
速水 心に響く名台詞だよね。関ジャニ∞の曲を聴いてると、メンバーはちょっとつらいだろうなってときどき思うよ。錦戸(亮)くんは、文句言わずによくやってる(笑)。
おぐら アイドルが気楽な商売だなんて、いまや誰も思ってないですよね。ルックスが良くて、気立ても良くて、歌って、踊れて、ファンを大切にして、そのうえニュースも読めないと務まらない。
速水 何も一番忙しい職業の人に、あれこれすべてを押しつけることはないのに。ニュース番組の司会くらい手放してもいいんじゃないかな。
おぐら このご時世、働き方の質や拘束時間を見直す流れの中で、アイドルの働き方が問題にされることがあってもいいのに、そこはまだ別世界と思われてますよね。
速水 アイドルが社会から守られる権利。当然、彼らがハラスメントを受ける側に回ることも多いだろうしね。とはいえ、かつてのように抑え込むことは難しい時代なんじゃない? つくづく北公次はもう少し長生きするべきだったなって思うよ。
おぐら 何の話ですか?
速水 そこは適当に流してもらっていいから……。
写真=釜谷洋史/文藝春秋