同じマンションに住んでいても、隣人がどんな人で、何をしている人なのかまったく知らない。現代にはよくある状況だ。もしかすると、住人たちのことを一番知っているのは、毎日のようにマンションに出入りし、各戸に荷物を届けている配達員かもしれない――。映画『あの人が消えた』の主人公は配達員の丸子(高橋文哉)。新しく担当になったマンションには“次々と人が消える”という噂があった。

「この設定を思いついたのはコロナ真っ最中の頃でした。僕もマンションに住んでいて、コロナ禍で家に居るようになって初めて、隣に住んでいる人と顔を合わせたんです。それまで隣人のことを何も知らなかったとあらためて気づきました。それに、ネット通販を使うことが増えたのですが、配達にいつも同じ人が来てくれる。配達の担当地域が決まっているんですね。その時に、『このマンションの住人のことを最も知っているのは配達員なのでは?』と思ったんです」

水野格監督

 演出を手掛けたドラマ「ブラッシュアップライフ」(主演:安藤サクラ、脚本:バカリズム)が国内外で数多くの賞を受賞し、注目を集めた水野格監督。オリジナル脚本で挑んだ本作は“先読み不可能”ミステリー・エンタテインメントと銘打たれているとおり、細かな伏線が張り巡らされ、予想外の展開が待ち受ける。

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「デヴィッド・フィンチャーや内田けんじ監督などの、1990年~2000年代の映画が好きなんです。彼らの作品のように、最後に驚きがあるものを作りたいという気持ちは最初からありました」

 決められた時間に届けなければならない大量の荷物。何度訪れても不在の住人。過酷な仕事に追われる中、丸子の唯一の息抜きは、小説投稿サイトでお気に入りの小説の最新話を読むことだった。

 ある日、丸子は、新しくマンションに越してきた住人の小宮(北香那)がその小説の作者ではないかと気づく。確かめられないまま密かに憧れていたが、上の階の住人・島崎(染谷将太)が小宮にストーカーをしているのではないかとの疑惑が。丸子は、運送会社の先輩・荒川(田中圭)に協力を仰ぎ、他の住人たちに聞き込みを始める。曲者だらけの住人たち、配達中にドアの隙間から垣間見えたもの、血だらけの人を見たという証言……謎が深まっていく中で、全員が怪しく見えてくる。

「脚本にいろんな仕掛けがあり、シーンによって印象が変わるので、もしかしたら現場でちょっとつまずくかもな、と思っていたんです。でも、俳優のみなさんもプロフェッショナルなので、僕が書いたものを全て理解してくれていましたし、きちんと成立するように演じてくれました」

©2024「あの人が消えた」製作委員会
配給:TOHO NEXT

 日本テレビに所属し、これまでドラマを多く手掛けてきたが、もともとはバラエティーの出身だという。

「ドラマや映画をやりたくて入社したのですが、まず配属されたのがバラエティー班でした。僕は『月曜から夜ふかし』が長いんです。人は見かけによらない、見かけだけで判断できない、ということはあの番組を通して強く感じたことですが、それが今回の設定にうまく結びつきました。それに笑いの組み立て方とホラーの組み立て方って、ちょっと似てると僕は思うんです」

 最も悩んだのはラストだという。詳細は伏せるが、あるサプライズが。

「今の世の中、理不尽なことが多いですし、どこか閉塞感がある。コロナで居酒屋のバイトができなくなり、宅配の仕事を始めた丸子だって、理不尽な目にあっている一人です。それなのに、作中で『現実は辛いけど頑張って生きよう』みたいなメッセージを無理に押し付けたくはないと思ったんです。その上で、どう楽しんでもらえるかを考えました」

みずのいたる/1989年生まれ。愛知県出身。ドラマ「ブラッシュアップライフ」でAsian Academy Creative Awards 2023最優秀監督賞を受賞。2022年に企画・監督を務めた日英共同開発ドラマ「名探偵ステイホームズ」の米国版が企画進行中。監督を務めた作品に、スペシャルドラマ「侵入者たちの晩餐」、「ダマせない男」、「ダブルブッキング」、連続ドラマ「レッドアイズ 監視捜査班」など。

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映画『あの人が消えた』(9月20日公開)
https://ano-hito.com/