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「俺が殺した」16年前に亡くなった同級生の慰霊登山中に遭難…山小屋に閉じ込められた2人の関係を変える“衝撃の告白”

ヤン・イクチュン(俳優)――クローズアップ

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「ミステリー劇でもあり、閉ざされた空間の中で展開されるスリラーでもあります。完成した映像を観て、私自身、恐怖するほどの臨場感も。とても完成度の高い作品に仕上がったと感じています」

 そう語るのは、韓国人俳優のヤン・イクチュンさん。まもなく公開される山下敦弘監督の新作映画『告白 コンフェッション』で、生田斗真さんとダブル主演を務めた。

 原作は、『カイジ』の福本伸行、『沈黙の艦隊』のかわぐちかいじという2人の人気漫画家の共作によって1998年に発表されたコミックだ。物語は、タイトルどおり、ある“告白”で幕を開ける。

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ヤン・イクチュンさん

 大学山岳部OBの浅井(生田)とジヨン(ヤン)は、16年前に山の事故で亡くなった同級生さゆり(奈緒)の慰霊登山中に猛吹雪に襲われ、遭難。そのうえ脚に大怪我を負ってしまったジヨンは、もう自分は助からないと腹を括り、突如、浅井に向かってこう告げる。“俺がさゆりを殺した”

 直後、運良く山小屋が見つかって2人は一命を取り留める。しかし浅井の頭からは、先ほどの言葉が離れない。見ると、ジヨンの態度が何やらおかしい。彼は、あの告白を後悔しているに違いない……。

 果たして、救助隊が来る朝をリミットに、親友同士だったはずの男2人による、決死の攻防が始まった――。

「実は、出演オファーをいただいたのは、なんと約5年も前のことでした。撮影が遅れたのはコロナ禍などの理由もあったそうですが、その間にシナリオも何度も変わったんです。それほど、本作が山下監督にとって大切な作品なのだとわかりましたし、時間があった分、私も、かなり深いところまで役を掘り下げて撮影に臨むことができました」

 ヤンさん演じるジヨンは、物語が進むに従って理知的な雰囲気を一変。狂気をはらんだ様相で、山小屋中、逃げる浅井を追いかけ回すのだ。

「しかし、ジヨンはただの悪徳な人物ではなく、ああならざるを得ない事情を持っていたのだと思いました」

 俳優だけではなく、映画監督としての顔も持つヤンさん。役作りについては、独特なこだわりがあるようだ。

「私は台本を受け取ったら、まず一読し、セリフを覚え始めるよりも前に、その役についてじっくりと考えます。これまでどんな人生を送ってきた人なのか、どんなビハインドストーリーを持っているのか。それを細かく考えることが、私にとっては、とても大切な作業なんです」

©2024 福本伸行・かわぐちかいじ/講談社/『告白 コンフェッション』製作委員会 配給:ギャガ

 実際に本作でも、どこにも描かれていないジヨンのバックストーリーについて、韓国からの留学生として日本に来た当時の純粋な青年時代に始まり、ジレンマを抱えての帰国、16年間にわたる葛藤、その間の浅井との交流まで、時間をかけて自身の中に落とし込んだ。

「ジヨンが雪山であの告白をするに至った心情、またその後に取る行動の裏側には一体何があったのか? それを感じてもらえたらと思います」

 一方、多くの観客を恐怖に陥れるであろう、振り切ったアクションシーンについては、「楽しかったです。山下監督には、緊迫したシーンの中にも笑いを入れようという意図があったんだと思います。ウィットに富んだアクションとでもいいますか、怖さの中にちょっとした笑いがあるんですよ」と笑みを浮かべる。

 作家性と娯楽性を兼ね備えた作風で知られる山下監督だが、実は、サム・ライミ監督によるホラー映画『死霊のはらわた』が大好きとのこと。意外な新境地になりそうだ。

「それから、生田さんの演技にも助けられました。彼は本当に凜々しくて素敵な俳優さんですが、撮影中は、全力で私を怖がってくれ、プロとしてベストを尽くしてくれました。そのおかげで、私も果敢に思い切った演技ができたと思っています」

양익준/1975年生まれ、韓国・ソウル出身。2009年の長編映画監督デビュー作『息もできない』で、主演・監督・製作・脚本・編集を担当し、国内外で多くの賞を受賞。俳優としては『かぞくのくに』(12)、『中学生円山』(13)などに出演。17年の『あゝ、荒野』では菅田将暉とダブル主演を務めて話題を呼んだ。

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映画『告白 コンフェッション』
5月31日公開
https://gaga.ne.jp/kokuhaku-movie/

「俺が殺した」16年前に亡くなった同級生の慰霊登山中に遭難…山小屋に閉じ込められた2人の関係を変える“衝撃の告白”

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