セーラー服に水兵帽でお馴染みのウィーン少年合唱団が来日中だ。全国各地で、心を解きほぐすような「天使の歌声」を響かせている。

「9歳から14歳の約90名の少年たちから成るウィーン少年合唱団は、シューベルト組、ブルックナー組、ハイドン組、モーツァルト組の4つのグループに分かれています。今回のステージに立つのは、シューベルト組の25名です」(ウィーン少年合唱団団長・エーリッヒ・アルトホルト氏)

 ウィーン少年合唱団の歴史は古い。1498年にハプスブルク家出身の神聖ローマ帝国皇帝マクシミリアン1世が結成させた6人の少年聖歌隊がその始まり。やがてウィーン宮廷音楽礼拝堂付きの少年聖歌隊となり、1924年に、現在まで続く「ウィーン少年合唱団」として再結成された。実に525年以上の歴史を誇るのだ。

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 団員たちは、普段はウィーン市内のアウガルテン公園内にある学校に通い、寄宿舎として使われている「アウガルテン宮殿」で寮生活を送っている。語学、数学、化学などオーストリアの基準に沿った授業を受けつつ、歌のレッスンに励み、国内外で公演を行う。1年のうち3カ月は海外暮らしだ。

 今回の来日組は、オーストリアのほか、日本、ウクライナ、韓国、ハンガリー等、7カ国の子どもたちで構成されている。

「合唱団の子どもたちは多国籍。ですから、互いに寛容になり、リスペクトし、宗教も超えて、常に世界に向けてオープンでいようといつも子どもたちに話しています。それが私たちの目標でもあるんです」(アルトホルト氏)

 2017年3月には、この特別な教育と合唱の伝統が認められ、ウィーン少年合唱団はオーストリア・ユネスコ国内委員会により、同国の無形文化遺産に登録された。

 歌の練習でも国籍の多様さは生かされているよう。今回の来日メンバーの中には日本人が2人いるが、サイキ君(11歳)はその一人。

「日本の曲を練習するときには、まずは僕たち日本人が他の国のメンバーに歌詞の意味を説明するんです。そして最初はメロディを付けずに詩として読む練習をする。発音がうまくできるようになったらメロディを付けて歌っていきます。同じように、たとえばハンガリーの曲ならハンガリーの子たちが歌詞の意味や発音を僕たちに教えてくれます」(サイキ君)

オーストリア・ウィーン市内にあるアウガルテン公園にて ©www.lukasbeck.com

 今回の公演では、「夢みる夜と魔法の世界」「ウィーン少年合唱団と巡る四季」の2種類のプログラムが用意されている。どちらもJ・シュトラウスⅡ世の《美しく青きドナウ》など伝統的なナンバーに加え、前者なら久石譲の《君をのせて》、後者なら米津玄師の《パプリカ》など日本の楽曲が数曲含まれる。なかでも両プログラムにある岡野貞一の《ふるさと》は、聴衆の心にそれぞれの故郷を思い起こさせるはず。同時に少年たちもまた、日頃は離れて暮らす家族との風景を心に描いて歌っているのだそうだ。

 ところで日本国内の小中学校でも合唱は盛んに行われている。合唱を成功させる秘訣とは何だろうか。

「まずは歌を好きになることです。好きじゃないと、声も出ないし、歌のメッセージも伝わらない」(サイキ君)

「あとは情熱を持って歌うこと。もちろん練習も大事!」(ベンセ君 14歳)

「歌うことが大好き」「歌っているときが一番楽しい!」と少年たちは声を揃える。その言葉通り、ステージで歌う彼らの表情は生き生きと輝き、いかにも楽しそうだ。

「お客様にそう感じてもらえることが、僕たちの目標のひとつです!」(フィリップ君 14歳)

ウィーン少年合唱団/ユネスコ無形文化遺産にも登録されている、世界で最も有名な少年合唱団。本拠地ウィーンのほか、ヨーロッパ各国、アメリカ、アジア、オセアニアなど世界中のコンサートに出演。近年は団員の多国籍化、ウィーン少女合唱団の活動など新たな取り組みが注目されている。

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『ウィーン少年合唱団2024年来日公演』
詳細は公演公式サイトhttps://www.japanarts.co.jp/special/wsk/にて