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介護施設で起きた「不審死」事件、関係者の取り調べをするうちに…刑事が介護士女性に抱いた“歪んだ欲情”

大森立嗣(映画監督)――クローズアップ

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「この原作小説はいろんなテーマが重層的に広がっていて、一筋縄ではいかない難しさがあります。でも僕はこういうのが結構好きなんですよね」

 こう語るのは、映画『湖の女たち』で監督・脚本をつとめた大森立嗣さん。原作は吉田修一さんの小説で、2人のタッグは映画『さよなら渓谷』以来、2度目となる。

大森立嗣監督

 琵琶湖にほど近い介護施設で寝たきりの男性の不審死事件が起こる。施設関係者の取り調べが進む中、刑事の圭介は、介護士・佳代への歪んだ欲情に駆られる。佳代もまた嗜虐的な圭介に次第に引き込まれ、2人は倒錯的な関係に……。そんな難しい役に、福士蒼汰さんと松本まりかさんがW主演で挑んだ。

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「福士くんには、『圭介は君なんだ、だから君が感じたことが映画になっていくんだ』と言い続けました。内容が過激になっていっても嘘をつかずに、自分がその時に感じたことをきちんとお芝居にしてほしいと、そう伝えましたね。

 松本さんも大変な役だったと思います。今回初めてインティマシーコーディネーターを入れたんです。最初はナイーブになって、考えすぎてしまっている感じがあったけれど、やり切ってくれました。彼女とは昔から知り合いなので、監督と主演という形で一緒にやれたのは幸せでした」

 何も証拠が挙がらぬまま、取り調べは苛烈さを増す。浅野忠信さん演じるベテラン刑事・伊佐美の恫喝まがいの尋問は、被疑者となった佳代の同僚を追い詰めてゆく。

©2024 映画「湖の女たち」製作委員会

「浅野さんはそれこそ、どんな役でも全く嘘をつかない。自分の感覚をシーンや台詞に落とし込むのが本当に上手いんです。あの髪型も、浅野さんが実際の刑事の写真を持ってきて『こんなんどう?』って提案してくれて。圭介は先輩の伊佐美に必死に食らいついていこうとしますが、福士くんも、まさにそんな感じで浅野さんに食らいついていって、いい化学反応が起こったと思います」

 一方、過去の薬害事件を取材していた週刊誌記者の池田(福地桃子)は、薬害事件と今回の不審死事件の意外な結びつきを突き止める。さらに、薬害事件は戦時中の満州へと繋がり――。歴史の暗部が現代の事件と重なる時、美しい風景の先に池田が見たものとは。

「冒頭の夜明け前の湖畔のシーンは、全てが同じ世界の中にあるんだということを表現するために一つのカットにしたかったんです。他の場面でも、疑う側と疑われる側、性的に倒錯した2人――分かりあえない2人を同じフレームに入れ込みたいというのがありました。異物と異物が向き合っているだけでどこか暴力的に見えるかもしれませんが、簡単な言葉に回収されないものに目を向けたかったんです」

おおもりたつし/1970年生まれ、東京都出身。父親は前衛舞踏家で俳優の麿赤兒。弟は俳優の大森南朋。2005年、長編監督デビュー作『ゲルマニウムの夜』が国内外の映画祭で高い評価を受ける。13年『さよなら渓谷』でモスクワ国際映画祭審査員特別賞受賞。監督・脚本作品に『光』(17)、『日日是好日』(18)、『タロウのバカ』(19)、『MOTHER マザー』『星の子』(20)等。

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映画『湖の女たち』(5月17日全国公開)
配給:東京テアトル、ヨアケ
https://thewomeninthelakes.jp/

介護施設で起きた「不審死」事件、関係者の取り調べをするうちに…刑事が介護士女性に抱いた“歪んだ欲情”

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